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「胡潤百富榜」:英会計士が趣味で始めた長者番付、トップは農夫山泉の会長

長者番付といえば、一般的にはフォーブス誌やブルームバーグがまとめたランキングがよく知られていますが、中国ではさらにもう1つ、「胡潤百富榜(胡潤富豪ランキング)」が挙げられます。「胡潤百富榜」は、中国での留学や勤務経験を持つイギリス人の公認会計士、ルパート・フーゲワーフ氏(中国名は胡潤)が個人的な趣味によって作成したものが始まりで、1999年に初めて発表され、23年で25回目となります。同氏が率いる胡潤グループは富豪ランキングや企業ランキングのほか、ユニコーン企業や慈善、ブランド価値などにスポットを当てたランキングなど徐々に業容を拡大。ランキングは現在、中国経済を理解するための重要なツールとなっており、ルパート・フーゲワーフ氏は「中国の民間経済研究のゴッドファーザー」などとも呼ばれています。


農夫山泉の会長は資産4500億元、2位以下に圧倒的大差

「胡潤百富榜」という名前もあって、ランキングは「トップ100」とも思われがちですが、実は資産総額50億元以上の人をランキングしたもので、23年版のランキングには合計1241人が名を連ねています。ランキングを実際にみてみると、1位はミネラルウオーターの中国最大手、農夫山泉の創業者として知られる鍾センセン会長(センは目へんに炎)で、トップはこれで3回目となります。23年9月1日時点での資産総額は4500億元に上り、2位以下に圧倒的な大差をつけています。


続く2位は中国のインターネットサービス大手、テンセントの馬化騰会長。テンセントが手掛けるオンラインゲーム事業の好調に加え、テンセントが現物配当として美団の株式を分配したことで、資産総額は2800億元と前年から30%増え、順位を前年から3つ上げました。


一方、電子商取引(EC)プラットフォーム、ピン多多(PDD)の創業者として知られる黄崢氏が23年に初めてトップ3入りを果たしました。ピン多多は最近日本でも急成長している「Temu(ティームー)」なども手掛けており、海外事業の好調もあって資産総額は前年から1000億元(59%)増加の2700億元に拡大。増加率は23年トップとなっています。


以上がトップ3となりますが、この他に10位までで特に注目すべきは、民営自動車メーカー大手、吉利汽車の李書福会長が9位に順位を1つ上げ、アリババ集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏を約20年ぶりに追い抜いたことが挙げられます。吉利汽車は傘下に「ZEEKR」ブランドの高級電気自動車(EV)を手掛けるZEEKRインテリジェント・テクノロジーを抱えていますが、ZEEKRは米国での上場を計画しており、順調に進めば、李会長の順位が来年以降、さらに上がる可能性もありそうです。



別名「豚殺しランキング」?刑務所送りの代表格は国美零售の創業者

長者番付ランキングに名前が掲載されたとなれば、一般的には大変名誉なことですが、中国では少し事情が違うようです。というのも、この手のランキングに名前が載った途端、税務調査などが厳しくなるなんてことも多いようで、ランキングから名前を除外してもらおうとお金を払った人がいたとかいないとか・・・。一方、ランクインした人が収賄などの罪で逮捕されるような状況が頻発したことで、「胡潤百富榜」を「殺猪榜(豚殺しランキング)」などと揶揄する言葉も有名になりました。


刑務所送りになった富豪の代表格といえば、中国の家電量販チェーン大手、国美零售を創業した黄光裕氏が挙げられます。黄氏は家庭環境に恵まれなかったものの、兄弟とともに事業を始め、35歳だった04年に資産総額で中国トップとなっています。その後、順位に多少の変動はありますが、08年に再びトップに返り咲いたことがわかると、約1カ月後にはインサイダーや収賄などの罪に問われ、有罪が確定。まさに「転落人生」で、ほどなく14年の刑期が言い渡されました。黄氏のほかにも「問題富豪」は多くいますが、この他にも業界の浮き沈みによって順位や顔ぶれが大きく変わることから、ランキングの注目度は高く、毎年、発表時期にはニュースで多く取り上げられています。


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「栄耀」:華為から分離・独立、株式制改革完了で上場に現実味
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「上海証取の株券ペーパレス化」:世界に先駆けて実現
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「無人タクシー」:商業化に熱い期待
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「中国恒大集団」:本土不動産子会社に罰金、仲介機関や監査事務所にも波及
「新中国の株券の誕生」:株式制度の原点からのスタート
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中国株情報部 アナリスト

竹内 なつ子

大学卒業後、日本の証券会社に勤務。中国・北京での語学留学を経て、日系証券会社の上海駐在員事務所や台湾の会計士事務所で翻訳業務に従事。2級FP技能士。

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