顔の見えないインターネット取引にはどのように気をつけるか

近江商人は「三方良し」という言葉を大切にしています。買い手良し・売り手良し・世間良しの3つの要素を満たしてこそ、その取引は誇るべきものとなります。たとえ突出した利益を生み出せても、誰かを騙したり傷つけたりする商売は非難の対象です。近江に限らず日本人は商いをするにあたり、この言葉をとても大切にしてきました。

インターネットにおける詐欺案件は仕方の無いものか

今日になって、インターネットで直接顔を合わせずに取引をする事例が増えています。顔を合わせないから詐欺になる、という因果関係はありませんが、顔も住所も所属するコミュニティも知らない取引関係は詐欺を働いたり、納品・支払関係における債務不履行が発生したりする可能性は間違いなく高いものです。


相手を信じて成果物を納品しても持ち逃げられたり、紹介された投資案件が詐欺案件だったりといった事例が数多く報告されています。取引相手と急にコンタクトが取れなくなり訝しむ頃には時既に遅く、それまで費やした製作原価と人件費の回収が怪しくなり、頭を抱えます。

インターネットの仲介サービスの多くは責任を取らない


インターネットで持ち逃げ案件・詐欺案件の多い理由の1つに、いわゆるマッチングサイトがトラブルの際、責任を取らないことがあります。リアルな関係では人や会社を紹介したとき、その人がビジネスマナーを守らない人だった場合、紹介者も責任を取ります。発生した損失を紹介者が代理補填するのは珍しい例ですが、被害側の代わりに交渉したり、紛争解決に向けて尽力したりするのは当然です。


インターネットにおいてマッチングサービスの多くは、紛争は当事者間で行うよう規約に定めています。仕事や投資案件の出し手と受け手がトラブルになった場合、仲介者はどちらにもつかず、事態を静観します。


当事者間では解決せず、内容証明郵便の収受や告訴が行われた場合も基本的に動くことはありません。遠慮なく書くと、インターネットビジネスがいまひとつ信頼感を持たれない大きな要因です。そしてリアルな取引に慣れた人が延長上でインターネットによる顔の見えない取引を経験するときに、最も違和感を感じるのもこの部分です。


インターネットビジネスは特に、自分の身と利益は自分で守ることが要求されます。今後も取引量は伸長の一途を辿ることは間違いないですが、実は何にも守られない丸裸のなかで取引をしていることは頭に入れておくべきでしょう。


相手が豹変したときに打つ手があるか

もう1つの論点は、相手が豹変し本来の姿を見せたときに、打つ手があるかという視点です。あるエンジニアは提供しているシステムを瞬時に止められるプログラムを埋めておき、相手が納品後の支払に応じない場合や当初に無い追加開発などを進め取引がこじれた場合、停止信号を出してプログラムを使えなくなるという対応をしているようです。


デザイナーやライター、コンサルタントなどは同様の予防策はありません。中途確認などで見せたものを先方が黙ってダウンロードし、納品時に納得いかないと言って一方的に契約を切っても不正利用された証拠を見つけるのは難しいものです。デザイナーなら著作権があり、自動的に依頼主に譲渡されるものではなく、両者の合意を必要とします。ただ製作したデザインの違反利用が発覚した際に訴訟を起こすのはエネルギーが必要で、裁判費用の問題もあります。


インターネット取引を仕事にするなら覚悟を決める

では個別の対応はその時々に判断するとして全体像に移ります。インターネット取引を仕事にするなら、覚悟を決めることが大切です。覚悟を決めるとは、仮面を着けた取引先が本性を現して損失が生まれたら、泣き寝入りするという話ではありません。インターネット上でのビジネススタイルを、主に以下の3つのいずれかに分けることです。


(1)基本は性善説。発生した問題には弁護士も辞さないスタンス

疑って仕事を選ぶと前に進まず、売上も停滞します。そこで基本は性善説で進みます。ただ何かあった場合は損失回避に向けて十分な時間をかけ、最善の解決策を目指します。恒常的に顧問弁護士と契約していることも特徴の1つです。


(2)去る者は追わず。勉強代と割り切って1.2倍の案件を目指す

豹変した悪意ある取引先と交渉するのも労力がかかります。やり取りで不快になるくらいなら去る者は追わず、そのぶん1.2倍の案件を獲得しようというスタンスです。新しい案件を獲得することはトラブル対応と比較して精神的にも良い一方、あらたな仕事は自分の成長も加速させます。きわめて健康的な姿勢といえるでしょう。


(3)本当にこの案件は大丈夫か、徹底的に吟味する

本当にいま契約しようとしている案件は問題ないのか、徹底的に確認をする方法です。マッチングサービスにおける十分な情報開示があるか、ほかにも一定数の取引実績があるかを調べ、問題無いとジャッジしたものに限定して取り組みます。ある意味、最もリスクの少ないスタンスといえるでしょう。


どの方法論も正しくて、間違っているではありません。ただ拡張するインターネットサービスのなかで、自分のスタンスを決めるのは大切です。顔の見えない取引が自社の業績を左右する世の中、リスクヘッジの方法もまた、多様化を見せています。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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