バイデン氏2回目の一般教書演説、前回より長丁場に
バイデン大統領が2月7日、上下両院合同会議で一般教書演説を行いました。昨年は3月にずれ込みましたが、今年は従来通り2月となっています。
さて今回の一般教書演説、CNNによれば1時間12分44秒でした。前回の1時間1分50秒から延びた格好です。歴代でみると、過去最長のクリントン大統領(1時間28分49秒)、並びにトランプ前大統領の平均1時間20分以下ながら、再出馬アピールのため元気で闊達な様子をアピールしたかったのかも?
バイデン氏は冒頭、マッカーシー氏の下院議長就任にお祝いの言葉を寄せ握手し「一緒に仕事ができることを楽しみにしている」と発言しました。インフレ抑制法やCHIPSプラス法の成立を始め、「就任以降、超党派で300本の法案を成立させてきた」とも言及。共和党を含め米国が一丸となって結束してきたと訴えました。
画像:マッカーシー下院議長と握手をかわすバイデン大統領
(出所:The Associated Press/Twitter)
バイデン大統領、米債務上限引き上げ問題で共和党を口撃
しかし、一般教書演説開始から約45分後に議場は緊張に包まれます。
バイデン氏が「富裕層に公平な負担をさせる代わりに、一部の共和党議員はメディケア(高齢者向け公的医療保険)と社会保障の支出を5年毎に削減することを望んでいる・・・また、他の共和議員は我々がもしメディケアと社会保障費を削減しないなら、米国史上で初の債務不履行に陥ると言う」と発言した時です。
共和党議員が一斉にブーイングで対抗、トランプ支持派で保守強硬派でツイッターアカウントが一時凍結されたことで知られるマージョリー・テイラー・グリーン下院議員に至っては「嘘つき!」と野次を飛ばす一幕がみられました。
画像:MGTが「嘘つき!」と叫んだワンシーン、リンクからはその他の共和党議員の表情が伺えます
(出所:CSPAN/Twitter)
バイデン氏の発言は、大混迷した下院議長選出に絡む下院の共和党保守強硬派とマッカーシー陣営の妥協を指します。1月9日に採択された下院の規則で債務上限引き上げは予算案と分けて採決、さらに債務上限引き上げには歳出削減が必要という案が盛り込まれました。ロイターの報道でも、マッカーシー氏とバイデン氏との米債務上限引き上げ問題をめぐる2月6日の会談では、歳出削減につき議論の対立が確認できます。マッカーシー氏が債務上限引き上げに歳出削減を求めた一方で、バイデン氏は債務上限引き上げ後に歳出削減に応じると議論は平行線にとどまり、バイデン氏は一般教書演説で両者の意見の違いを世間にハイライトした格好です。
一般教書演説後、ペロシ前下院議長は「共和党議員は抗議し過ぎだ」とたしなめ、他の民主党議員は「子供じみた行動だ」と批判。両者の溝は、再び開いてしまったようです。
中国の脅威から「米国守る」、一方で中国には「対立ではなく競争を求める」と言及
中国偵察気球については、後半で取り上げられました。
バイデン氏は「習氏に対立ではなく、競争を求める方針を明確にした」と言及。その上で「中国が米国の利益を増進し、世界に利益をもたらすことができる場合には、中国と協力することを約束する」とクッションを置いた後、「先週明らかにしたように、もし中国が我々の主権を脅かせば、国を守るために行動する。そして、我々はそれを実行した」と強調しました。また、「太平洋と大西洋のパートナーの間に橋が架けられつつある。そして米国に反対する賭けをした人たちは、それがいかに間違っているかを学んでいる」と対中包囲網が構築されつつある現状を訴えました。当初は中国との競争について言及する方針でしたが、中国偵察気球の撃墜などを受けて急遽変更したといいます。
米国防総省のライダー報道官は一般教書演説前、中国の偵察気球を撃墜直後に中国に国防相電話会談を申し出たところ、中国側が拒否したと明かしていました。足元、バイデン氏が2月6日に「米中関係、気球撃墜で弱まることない」と発言したように、中国との対話路線を維持すべく努力しているようです。
ロシアに対峙する姿勢も忘れません。NATOの下で結束しプーチン大統領による侵略に立ち向かったと強調。ウクライナ政府を支援する姿勢をあらためて打ち出しました。
ちなみに「中国」の言及回数は6回、「習(Xiと表現)」は1回、「プーチン」は4回、「ウクライナ」は2回でした。
バイデン氏、自社株買いの課税4倍、迷惑手数料防止法の法案成立を目指す
その他、米株市場に影響しそうな注目ポイントは以下の通り。ねじれ議会ですので、バイデン氏が要請に共和党が多数派を握る下院が成立の障害となります。
・米連邦政府のインフラ計画に使用する建設資材を全て国産とする”バイ・アメリカン”強化案を提案
・自社株買いの課税をインフレ抑制法で導入した現行の1%を4倍に引き上げるよう主張
・資産10億ドル以上の億万長者向けにビリオネア・ミニマム税の導入を提案
・迷惑手数料防止法の成立を目指す
→インターネットや携帯電話乗り換える際に掛かる不当な請求のほか、ホテルが請求する”リゾート手数料”、航空会社が家族全員が近くに隣同士の席で一緒に座るための支払う費用など、少額だが中低所得者層に打撃となる手数料関連(英語でjunk fees)の廃止を柱とした法案可決を米議会に求めた。
CNNによれば、一般教書演説でバイデン氏が最も時間を割いて使用した言葉は以下の通り。
ご覧の通り、「ヘルスケア」が8分57秒でトップでした。インフレ抑制法に盛り込まれた薬価削減などを訴えた様子が伺えます。また、米1月雇用統計の好結果を受けて、「経済」について6分56秒も言及し良好な景気をアピール。「警察」に5分28秒割いたのは、テネシー州メンフィスで発生した警官による黒人男性暴行事件の影響です。緊急事態解除を5月11日に控え、「コロナ」は2分38秒程度でした(ジル大統領夫人とハリス副大統領の夫とのキスがツイッターで話題になりましたが、これは正常化の印?ちなみに81歳のバーニー・サンダース上院議員は一人マスクを着用して参加)。また「ロシア/ウクライナ」は1分58秒、「中国」については1分46秒となっています。
CNNがSSRSと実施した世論調査では一般教書演説を聞いた視聴者の72%が「ポジティブ」と回答、前年の71%を上回りました。「非常にポジティブ」は34%と前回の41%から低下していましたが、2回目という事情があったのでしょう。一方で、バイデン氏による一般教書演説の視聴者2340万人と昨年から29%減少したのは、関心の低さゆえというより共和党が僅差ながら下院を奪取した結果、政策実現期待が低下した表れかもしれません。