【米国IPO銘柄の横顔】アトラス・エナジー・ソリューションズ(AESI)「砂も地産地消」

米国市場では2020-21年に新規株式公開(IPO)が活発化し、特別買収目的会社(SPAC)を通じた上場も相次ぎましたが、2022年には金融引き締めや景気低迷を背景にIPO市場は一転して厳冬期に入ります。上場が見込まれていた有力新興企業の一角は冬眠に入ったように鳴りを潜めてしまいました。


2020-21年に上場した銘柄の中ではテクノロジーセクターの落ち込みが顕著です。上場後にいったん上昇する銘柄は多かったのですが、その後に急落するケースが相次ぎました。対照的に底堅かったのはエネルギー関連銘柄です。


今年の米国IPO、1-2位はエネルギー関連

今回ご紹介するアトラス・エナジー・ソリューションズ(AESI)もエネルギー関連の業界に分類される銘柄です。2023年にIPOに踏み切った銘柄の中で、調達額や時価総額などで2番目の規模になります。アトラス・エナジーは2023年3月9日にニューヨーク証券取引所に上場します。


2023年で最大のIPOといえば、前回のコラムでご紹介したネクストラッカー(NXT)です。太陽光発電の追尾型システムの開発・生産を手掛ける世界最大の会社です。ロシアとウクライナの戦争の終結がみえない中、エネルギーの安定的な確保は重要な課題。米国株のIPO規模の今年1-2位がエネルギー関連というのは、偶然ではないのかもしれません。


水圧破砕法で使うプロパントのサプライヤー

アトラス・エナジーは石油・ガス開発の水圧破砕法(フラッキング)で使う特殊な砂粒(プロパント)のサプライヤーです。テキサス州西部からニューメキシコ州にかけて広がる油ガス田地帯のパーミアン盆地で探査・開発に取り組む石油会社に製品を提供しています。



水圧破砕法は、油層や天然ガス層を形成している貯留岩に圧力をかけて亀裂を作り、液体を流れやすくして石油や天然ガスの生産性を上げる技術です。亀裂は放っておくと閉じてしまいますが、それを防ぐためにプロパントを亀裂に注入します。プロパントは支持材として亀裂を長期にわたって維持する役割を担うのです。


水圧破砕技術の向上は米国で「シェール革命」が起きる要因のひとつになりました。水圧破砕は環境面の問題を抱えていますが、現状では開発コストの面で採算ベースに乗る採掘手法です。採掘条件の良い油ガス田が徐々に減り、生産の難度が段階的に高まると予想される中、水圧破砕法とプロパントの需要は今後も増えると見込まれます。


パーミアン盆地の中で生産と供給

アトラス・エナジーはパーミアン盆地の中に位置するテキサス州西部のカーミットとモナハンズに砂取場を兼ねた生産基地を保有しており、プロパントに精製して顧客に提供しています。砂取場の面積は合わせて約154平方キロメートル。顧客もパーミアン盆地で生産活動を手掛けており、アトラス・エナジーのプロパントは理想的な「地産地消」といえそうです。


納入先が近いだけに採用しやすい「ジャストインタイム」は競争力の源泉です。顧客に過剰な在庫を持たせることなくタイムリーにデリバリーできるのは大きな武器になります。



カーミットとモナハンズの砂取場と生産基地には貯水池があり、これもビジネス面で有利に働いているようです。余分な費用をかけることなく、水中採取や洗浄などの作業をこなすことが可能なためです。


カーミット生産基地でのプロパントの年産能力は500万トンで、砂の確認埋蔵量は1億8800万トンに上ります。比較的粒子の大きい「40/70メッシュ」の砂の生産量が全体の約30%、粒子の細かい「100メッシュ」が70%を占める見通しです。


モナハンズ生産基地も年産能力は500万トンで、埋蔵量は1億1350万トンです。生産量見通しの内訳は「40/70メッシュ」と「100メッシュ」がそれぞれ50%です。


「砂山特急」を建設、プロパント運搬に革命

アトラス・エナジーのビジネスはプロパントの生産と運搬ですが、運搬のほうで革命を起こそうと考えているようです。「デューン・エクスプレス」、直訳すると「砂山特急」と呼ぶ構想で、プロパントをコンベアに乗せて搬送する仕組みです。


まずアトラス・エナジーの生産基地とパーミアン盆地の一部である北部デラウエア盆地を結びます。全長は42マイル(約67.6キロメートル)。2023年第1四半期に着工し、2024年末までに完成させる計画です。


総工費は約4億ドルです。アトラス・エナジーはIPOを通じて正味で3億ドル弱、追加発行のオプションを含めれば最大で3億3800万ドルを調達する見通しですが、調達額の大半をこのプロジェクトに投じます。今回のIPOは「デューン・エクスプレス」の建設資金を調達するためだったと言っても過言ではないようです。


アトラス・エナジーは「デューン・エクスプレス」が稼働した際のメリットについて、製品の迅速な供給で生産性が高まると説明しています。また、運用するトラックの数が減ることで、温暖化ガス排出量の削減、道路の交通量と交通事故の減少につながると強調しています。



パーミアン盆地は石油・天然ガスの生産活動が米国で最も活発と言われています。米国には手つかずの原油・天然ガス760億バレル相当の埋蔵が推定されていますが、大半がパーミアン盆地に眠っていると考えられているそうです。


アトラス・エナジーの事業は国際情勢や原油価格の動向に左右されるとみられます。ただ、シェールガスやシェールオイルの埋蔵が見込まれる地域で展開する石油・ガス生産に不可欠なビジネスとの位置づけは変わらないようです。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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