2023年3月27日にVTuber事務所大手のカバーが東京証券取引所グロース市場に上場する予定です。今回はカバーのIPOについて、競合と考えられるANYCOLOR(2022年6月8日上場、以下エニーカラー)と比較してみたいと思います。
VTuber事業のスタートに注目
まず注目したのは有価証券届出書におけるそれぞれのVTuber事業のスタートに関する記載です。
エニーカラーの沿革には、2018年に「にじさんじ」の始動を発表し、ライバー(動画配信活動を行う配信者の名称)募集を開始したとあります。
カバーの沿革には、2017年9月にVTuberアイドル「ときのそら」の活動開始、翌年6月に女性VTuberグループ「hololive」を立ち上げたとあります。
「にじさんじ」は動画配信活動を行う配信者を集めることからスタートしており、「ホロライブ」はVTuberアイドルがスタートとなっています。この違いが以下の所属VTuber数の違いとなって出てきているように感じます。そしてそれは、利益率の違いにもつながっていると考えます。
カバーとエニーカラーの利益率
エニーカラーの業績と利益率
カバーの業績と利益率
利益率に関してはエニーカラーが30%程度、カバーは10%強と大きな差があります。ちなみに、大手芸能プロのアミューズの営業利益率は9%程度(21.3期)です。カバーがアイドル事務所に近いと仮定すれば、アミューズの利益率に近いことは不思議ではないのかもしれません。
カバーとエニーカラーのPERと吸収金額
上場時の仮条件とPER
PERの算出条件や上場時点の相場状況などの違いはありますが、単純比較するとカバーのPERはエニーカラーに比べて高いといえます。
そして、エニーカラーの公開価格は仮条件の上限の1530円(PER:18.3倍)で決定し、吸収金額は27.5億円となりました。
カバーの公開価格が仮条件の上限で決定した場合、750円(PER:31.3倍)、吸収金額は107.2億円となります。吸収金額(公開価格×公開株数)もカバーのほうが大きいことがわかります。
エニーカラーの足もとの状況
エニーカラーの初値は4810円(PER:57.7倍)でした。2022年10月27日には1万3790円まで上昇しています。しかし、足もとの株価は4220円(PER:24倍)と初値を下回る水準まで下落しています。なお、エニーカラーの上場後の株価の動きの詳細については、コラム:あの株はいまいくら?第9回「にじさんじ運営のエニーカラー ホロライブのカバー上場で需給はさらに悪化?」で詳しく説明していますので、そちらをご覧ください。
エニーカラーの足元のPER24倍をカバーに適用すると574円です。仮条件の710円~750円を大きく下回ります。
アナリストとしては利益率に大きな差があるのに、カバーにエニーカラーを超えるPERが設定されることは、許容しづらいでしょう。これが「カバーのIPOは割高ではないのか?」につながっていると思います。
最後に
もちろんカバーはこれからの会社です。今後、グッズ販売に力を入れることを表明しています。また、メタバースサービス「ホロアース」の常設ロビー空間のβ版を昨年11月にリリースするなど楽しみな取り組みもあります。応援する意味で投資をするのもよいと思います。
その場合、IPO当選は狭き門なので、セカンダリー、特に初値買いを狙う人が多いでしょう。ただ上場直後は株価の変動率は大きくなりやすいです。カバーを長期で応援してきたいという人は、急いで買うことはないと思います。
カバーは3月決算なので、通期決算に合わせて来期24.3期の予想が4月~5月に発表されるはずです。同社の成長に期待するなら上場後、そして決算発表前のタイミングでの買いを狙った方がよいでしょう。「ご祝儀で初値買い」ということも理解できますが、他の投資家を儲からせるくらいなら直接VTuberに投げ銭したほうが良いと考えます。