金融システム不安で米VIX指数の上昇に警戒

今回は米VIX指数(以下、「VIX指数」)に着目します。

「ボラティリティ・インデックス」の略称となり、シカゴ・オプション取引所(CBOE)がS&P500種指数(以下、S&P500)のオプション取引の値動きを基に算出しています。


「投資家の株式相場の先行きに対する心理状態」を示す指数となり、「恐怖指数」とも呼ばれています。

米VIX指数の数値が高いほど「株式相場の急な上下動が起こりやすい」と考えている投資家が多く、一方、米VIX指数の数値が低いほど「株式相場が安定する」と考えている投資家が多いとみられています。



通常は10~20の間で推移

米VIX指数は通常は10~20の間で推移します。

ただし、米雇用統計やFOMCなど重要イベントの結果や景気動向に影響を与えるニュースに反応しやすく、世界経済を揺るがす出来事が発生すると大きく上昇することがあります。

一般的には、30を上回ると市場の動きが不安定になり、40より上では市場がパニック状態との見方がなされています。


実際にリーマンショックが発生した2008年10月には過去最高値の89.53まで上昇。当時は主要金融機関による破綻の連鎖への警戒感から世界経済の先行き不透明感が強まりました。どこまで世界経済が落ち込むのか見通せず、株式相場に対する投資家の不安心理の強まりが米VIX指数の大幅な上昇につながりました。


新型コロナウイルスの感染急拡大時は80超

2020年初から世界中で新型コロナショックの感染が急速に拡大した際、3月にかけて米VIX指数は大きく上昇し、S&P500指数は急ピッチで下落しました。

米VIX指数はリーマンショック時の過去最高水準に迫り、S&P500指数は2月中旬から3月下旬にかけて35%程度下落。一方、米VIX指数が低下に転じると、S&P500指数は上昇基調に転じました。



米VIX指数の上昇局面では株式相場の下げに拍車がかかる傾向にあります。

その要因の一つとして、ヘッジファンドなどが採用している「リスクパリティ戦略」が影響している可能性があります。

「リスクパリティ戦略」とは、株式や債券などポートフォリオの各資産のリスクの割合を均等になるように資産を保有し、各資産の市場の動きにあわせて各資産の組み入れ比率を機動的に変更する戦略となります。

ボラティリティが低く安定している場合は、ヘッジファンドなどの運用家は株式の組み入れ比率を高める一方、ボラティリティが高まると株式の組み入れ比率を低下させる傾向にあります。

専門的な説明となりましたが、「米VIX指数の上昇局面では株式市場の値動きが荒くなりやすい」と認識しておいてください。


金融システム不安で一時30超

2022年3月に入ると、米VIX指数は13日に一時30を上回りました。

上昇の契機は米国発の金融システム不安です。10日に米銀のシリコンバレーバンク(SVB)に続き、12日にはシグネチャー・バンクが経営破綻しました。

金融システムが混乱するとの警戒感から、米VIX指数は大きく上昇しました。


さらに15日にはスイス金融大手クレディ・スイスの経営不安が表面化し、経営不安が米国のみならず欧州まで広がっています。

クレディ・スイスに関しては、スイス国立銀行(中央銀行)から資金調達策を発表したことで、過度な経営不安への警戒が後退。米VIX指数は22台(3月16日時点)まで低下し、いったん落ち着きをみせています。

ただし、今後経営不安の動きが広がると深刻な金融システム危機への懸念が再燃し、再び米VIX指数が上昇する可能性に警戒する必要があります。


最後にS&P500指数の動向を確認します。

2022年は1月高値と3月高値を結んだトレンドラインに上値が抑えられる動きとなりました。

一方、2023年に入ると、米連邦準備理事会(FRB)による利上げ停止期待などを支えに上昇基調となりました。トレンドラインを突破し、2月2日に戻り高値をつけました。

一方、その後は上昇一服となり、足もとでは金融システム不安の高まりを背景にリスク回避姿勢が強まり、トレンドライン近辺まで下落しています。

今後も金融機関の経営不安を巡る報道に左右される展開が続きそうです。

再びトレンドラインを割り込むのか、米VIX指数の動向とともにS&P500の動向にも注目してください。


日本株情報部 アナリスト

角屋 昌範

2005年に国内証券会社へ入社後、投資情報部や調査部に在籍。投資情報部では、米国や香港株式市場見通しの作成など海外金融市場に関する調査業務に携わる。調査部では、ネット関連セクターを中心に国内個別企業のアナリストレポートを執筆した。 国内証券会社などを経て2019年に入社。主に先物市場見通しなど「デリバティブコンテンツ」を担当。 CFP DCプランナー

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