米ねじれ議会の確執で「Xデー」リーチ
イエレン米財務長官は、政府債務が上限の31.4兆億ドルに達し、早ければ6月1日にも国債の元本償還や利払いができなくなるリスクを議会指導部宛ての書簡で指摘しました。「Xデー」6月1日が近づくなか、楽観と悲観が交錯し、金融マーケットの動きを鈍くしています。
背景は米ねじれ議会の確執です。共和党優位の下院では、バイデン民主党政権が2024年の次期大統領選挙を有利に運ぶために導入した政策の撤廃を含む歳出削減を条件に、債務上限の引き上げを承認しました。電気自動車(EV)購入時の税額控除額など気候変動対策や、連邦政府学生ローンの返済一部免除など経済支援策が撤廃の対象となっています。
しかし、民主党優位の上院ではそうはいきません。事前の想定を覆す民主党の善戦となった中間選挙の公約でもあった学生ローン免除など、党の支持層に働きかける政策の継続を望むのは当然です。債務削減による政策撤廃を回避し、無条件で債務上限を引き上げることを求めています。
5月9日や12日に予定されていた与野党協議は延期されました。事務レベルでの調整が詰めきれなかったようです。16日にようやく協議が行われたものの1時間あまりで終了。曲がりなりにも協議が開催されたことで話し合いは少しずつだが進んでいるとのポーズを取り、バイデン大統領の主要7カ国(G7)首脳会議(G7広島サミット)欠席を回避するためのエクスキュース得たかっただけと疑いたくもなります。
同協議開始前から、G7サミット参加後のバイデン大統領の豪・パプアニューギニア訪問見送りの可能性が示されていました。G7後に話し合いがもつれ込む展開は想定済みだったのでしょう。
米10年債利回りは16日の協議が結論に至らなかったことや債券需給を材料に一時3.57%台まで上昇しました(図表参照)。しかし、それでも4月以降のレンジ内の振れにすぎません。悲観と楽観、見方が交錯してどちらに振れることもできない状態といえます。
「Xデー」金融システム不安より高めるリスク、政治リスクも懸念材料
「Xデー」を指摘したイエレン財務長官は15日、与野党協議を控えて楽観的な姿勢を示しマーケットもやや安心感を抱く場面はありました。しかし16日の講演では、時間が限られており議会の対応も鈍いため「日に日に経済コストが増加」「経済減速を招きかねない」と苦言も述べています。
バー米連邦準備理事会(FRB)副議長(金融規制担当)も16日、債務上限問題で金利上昇のリスクが高まる可能性などを注視しているとしていました。地銀破綻など金融システムが不安にさらされていることもあり、金利上昇が金融システムに与える影響への警戒感があるのでしょう。
債務上限問題は米議会の恒例行事との見方もあります。しかし、債務上限問題が引き起こす金利上昇が、それでなくともインフレ上昇による金利上昇に傷んでいる金融システム不安をより高める事態が危ぶまれます。
そして2011年のオバマ民主党政権下で債務上限問題が注目を集めた際と異なるのは、現状が米金利引き上げ局面であること。利上げサイクル終盤で、マーケットは年内利下げの可能性も織り込み始めてはいます。
しかし、ここもとの講演で今年の米連邦公開市場委員会(FOMC)政策決定の投票メンバーであるカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁は「インフレ鈍化のために残された道のりはまだ長い」「なすべき仕事まだある」と発言。追加利上げの可能性は五分・五分、あるいはそれ以上かもしれません。
16日の与野党協議前、民主党のシューマー米上院院内総務は「デフォルト(債務不履行)を人質にすべきではない」と述べ、協議後に共和党のマッカーシー下院議長も「週末までの合意は可能」として、交渉が明るいムードで進んでいることを強調しました。
両党ともぎりぎりまで少しでも有利な条件を引き出すために最大限の努力をしたと支持層に訴えたい気持ちもあるでしょう。一方で、国民の債務上限引き上げに対する賛否は分かれているものの、大多数がデフォルトすべきではないとの意思を表明しています。
ぎりぎり、もしくは大きな支障のない範囲の遅れで債務上限問題を収拾させるとの見方ができます。ただ、トランプ全大統領の支持層である強硬派が簡単に妥協すべきではないとの意見をゴリ押しする政治的リスクもあります。
落しどころをある程度楽観しつつも、いざデフォルトとなれば大惨事ともいえる危機を招く債務上限問題の「Xデー」まで予断を許さない状態が続きそうです。米株がリスク回避で反応する局面も想定しておいたほうかよさそうです。