【米国株かんたんナビ】情報技術セクター:世の中を一変させるゲームチェンジャー

S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。構成銘柄の採用には時価総額や株式の流動性だけでなく業績も考慮されるため、優良銘柄が多いことも特徴のひとつです。構成銘柄は情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分類され、それぞれセクター指数も算出されています。


時価総額1000億ドル超が16銘柄

11に分類されるセクターのうち、今回ご紹介するのは情報技術セクターです。このセクターはS&P500の業種別ウエートが最も大きく、全体の27.3%を占めています(2023年2月末時点)。大型株が多く、時価総額上位の銘柄を見ると、知名度の高いグローバルブランドがずらりと並んでいます。


米国経済の活力を象徴するような情報技術セクターの構成銘柄には、世の中を一変させる力を持つ企業も散見されます。米国市場全体で時価総額最大のアップル(AAPL)はその代表格でしょうか。iPhoneの登場をきっかけにスマートフォンが急速に普及し、私達の生活は様変わりしました。


米国市場全体で時価総額2位のマイクロソフト(MSFT)も情報技術セクターの企業です。マイクロソフトもパソコンの基本ソフト(OS)の「Windows」やアプリケーションソフトの「Office」で私達の働き方を大きく変えています。



このほかにも世界的な半導体メーカーのエヌビディア(NVDA)、ブロードコム(AVGO)、クアルコム(QCOM)、インテル(INTC)、ソフトウエア開発のオラクル(ORCL)、アドビ(ADBE)、通信機器のシスコシステムズ(CSCO)などそうそうたる企業が名を連ねます。人工知能(AI)や自動運転などの分野に欠かせない技術を持つ企業も多く、新たなゲームチェンジャーがこのセクターから誕生しても不思議ではないようです。


ビザとマスターカードは情報技術セクターに分類されていましたが、S&P500のセクター分類の基準となるグローバル産業分類標準(GICS)の分類方法変更に伴い、金融セクターに組み込まれることになりました。


情報技術セクターに分類されていた「フィンテック」が金融セクターに移っており、オンライン決済サービスのペイパル(PYPL)も金融セクターに分類されています。GICSはスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)と指数算出のMSCIが共同で開発した産業分類です。今回の変更は2023年3月17日の取引終了後に発効しています。


情報技術セクターの構成銘柄は66です。このうち3月21日時点で時価総額が1000億ドル(約13兆2000億円)を超えるのは16銘柄に上ります。


アップル、サービス部門が着実に成長

情報技術セクターで最も時価総額が大きいのはアップルです。市場から高い評価を得ている要因のひとつとして、持続的な成長力を挙げることができると思います。


アップルは例年、クリスマス商戦を見据えて新型iPhoneを9-10月ごろに発売するため、季節ごとに売上高が上下に振れやすいという特徴がありますが、四半期ベースの売上高は2022年7-9月期まで14四半期連続で前年同期比で増えていました。


2022年10-12月期決算は売上高が前年同期比5.5%減の1171億5400万ドル、純利益が同13.4%減の299億9800万ドルで、15四半期ぶりに減収減益となりましたが、もちろん売上高が減少したのには理由があります。


まずはドル高です。アップルの海外売上比率は58%に達しており、海外での売上高はドル高で目減りします。また、iPhoneの生産を請け負う鴻海精密工業の中国工場が新型コロナウイルスの感染拡大で正常に稼働できず、iPhoneの供給が滞ったことも痛手でした。この結果、iPhone部門の売上高は8.2%減の657億7500万ドルに縮小しています。



iPhone以外の製品別売上高はパソコンの「Mac」が28.7%減の77億3500万ドルに落ち込み、タブレット端末の「iPad」は29.6%増の93億9600万ドルと伸びますが、ワイヤレスイヤホンの「AirPods」や腕時計端末の「Apple Watch」などを含むウエアラブル&ホーム部門は8.3%減の134億8200万ドルでした。


プロダクト部門は低迷しましたが、サービス部門の売上高は6.4%増の207億6600万ドルと着実に成長し、四半期ベースで初めて200億ドルを突破しました。クラウドサービスや「AppStore」、音楽配信が好調でした。


デバイスとそれに付随するサービスがアップルのビジネスの生態系を構成しています。サービス部門は粗利益率が70.8%とプロダクト部門の37.0%に対して非常に高い水準を保っており、サービス部門の売上高の伸びが利幅の拡大につながる見通しです。


マイクロソフト、サブスク型モデルが堅調

マイクロソフトも持続的に売上高を伸ばしてきました。四半期ベースでは前年同期比で22四半期連続の増収を継続中です。もともと「Windows」はプレインストール型やパッケージ型、「Office」はパッケージ型が主力で、クラウド時代にそぐわないビジネスモデルでしたが、インド出身のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)が2014年に就任し、ビジネスモデルの転換を図りました。


サブスクリプション(定額課金)サービスの「Office 365」などを導入したほか、クラウドコンピューティングサービスの「Azure」も始動させました。その効果はいまも続いています。


2022年10-12月期決算は売上高が前年同期比2.0%増の527億4700万ドル、純利益が同12.5%減の164億2500万ドルでした。2桁の増収は21四半期連続で途切れましたが、増収自体は続いています。


セグメント別ではインテリジェント・クラウド部門の売上高が17.8%増の215億800万ドル、営業利益が7.0%増の89億400万ドルと稼ぎ頭に成長しました。「Azure」の売上高が31%増と全体をけん引しています。



ビジネスプロセス部門は売上高が6.7%増の170億200万ドル、営業利益が6.3%増の81億7500万ドルでした。ビジネス用の「Office 365」が11%増収、顧客関係管理(CRM)ツールの「Dynamics 365」が21%増収と好調です。


パーソナル部門は売上高が18.8%減の142億3700万ドル、営業利益が46.8%減の33億2000万ドルと低調でした。特にパソコンメーカー向けの「ウィンドウズ」、ゲームの「Xbox」、端末製品などが2桁減収と低迷しています。


エヌビディア、新製品の切り替えが業績回復の鍵

3Dグラフィックスなどの画像を処理する半導体プロセッサーであるGPU(画像処理半導体)の世界的大手、エヌビディア(NVDA)は業績の調整局面を迎えているようです。2022年11月-2023年1月期決算は売上高が前年同期比20.8%減の60億5100万ドル、純利益が同52.9%減の14億1400万ドルと落ち込みました。


マクロ経済環境の悪化に加え、新製品への切り替えに伴う在庫調整が業績低迷の要因です。特にゲーム用のGPUが低調で、売上高は46.5%減の18億3100万ドルに半減しました。一方、データセンター用の製品は好調で、売上高は10.7%増の36億1600万ドル。自動車向けは135.2%増の2億9400万ドルと急成長しています。


エヌビディアは画像処理、人工知能(AI)、データ処理、自動運転などの用途を見据え、新たな製品を投入しています。今後は新製品への切り替えのスピードが業績回復の鍵を握るとみられます。


ブロードコム、22年11月-23年1月期は53%増益

半導体のファブレスメーカー、ブロードコム(AVGO)が発表した2022年11月-23年1月期決算は売上高が前年同期比15.7%増の89億1500万ドル、純利益が同52.7%増の37億7400万ドルでした。2桁超の増収増益はこれで9四半期連続です。売上高の内訳は半導体部門が21.0%増の71億700万ドル、ソフトウエア部門が1.4%減の18億800万ドルです。



ブロードコムは積極的な企業合併・買収(M&A)で知られており、2019年にはサイバーセキュリティー大手、シマンテックの法人向け事業を買収。2022年には仮想化技術を手掛けるVMウエアを買収する計画を発表しています。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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