株主還元を強化する企業の新中期経営計画に注目

中計発表でストップ高


新たな中期経営計画を策定し、そのなかで株主還元策を強化する企業が足もとで増加傾向にあります。2023年3月の事例だけを見ても、岡三証券、旭ダイヤモンド工業などが中計を発表し、自社株買いや配当性向の引き上げなど、株主還元を強化する方針を表明しています。


言うまでもなく、これは東京証券取引所がPBR1倍割れ企業に対し是正を求めている取り組みに起因したものです。


以前の記事でもご紹介しましたが、東証では市場再編にからみ、継続的にPBRが1倍を割りこんでいる企業に向けて改善策などの開示を強く要請するといった方針を掲げています。岡三証券、旭ダイヤモンド工業ともにPBR1倍を割り込む水準であり、東証の求めに応じるかたちでPBR1倍を達成するための施策を打ってきたと言えます。


それぞれの企業の新中計について、少し詳しく見ていきましょう。岡三証券は3月24日に新たな「中期経営計画2023年度~2027年度」を策定したと発表。同計画のなかでPBRが1倍を超えるまで、年10億円以上の自社株買いを行うとしました。また、総還元性向目標も2021年度29.5%から50%に引き上げています。


同社の中計発表前のPBRは約0.5倍前後だったため、1倍超を達成するためには株価が2倍にまで上昇する必要があります。かなり高い目標と言えますが、この発表翌営業日の同社株価はストップ高まで上昇。その翌日もさらに上昇し、28日の終値でPBRは0.57倍まで上昇しました。


27日はストップ高でほとんど出来高がありませんでしたが、28日の取引ではそれまでの平均の20倍以上の出来高をこなし、昨年来高値を付けるなど今後の上昇にも期待が持てます。


岡三証券日足チャート


また、旭ダイヤモンド工業は3月27日、現在策定中の新中計における株主還元の方針について発表。配当性向を現行の40%から50%に引き上げるほか、中計期間となる2023年度~2025年度に総還元性向を120%以上とし、機動的に自社株買いを実施するとしました。


同社は2月に物言う株主として知られる村上世彰氏の長男である村上貴輝氏が運営するとされるMI2が2月22日、重要提案行為を目的に大量保有報告書を提出したことで注目されていました。前述した東証による働きかけだけでなく、アクティビストによる株主還元の要求についても、近年の市場では活発化しているように思われます。


同社は保有資産に占めるキャッシュの割合が高く直近四半期(23.3期3Q)時点で約20%、自己資本比率は同83%とかなり高い水準にあります。この点から村上氏の投資先として選ばれた可能性がありそうです。


株価は27日に一時前日比10%超の水準まで上昇。翌28日も3%上昇しています。策定中の新中計については、5月の決算発表時に合わせて正式に発表するとしていますので、その内容も含めて今後の株価はさらに注目です。


旭ダイヤモンド工業日足チャート


2023年新たに中計を発表しそうな企業は?


さて、ここまで中計発表後に株価が大きく上昇してきた2社の事例をみてきましたが、当然この流れから「新たに中計を発表する企業の株を先回りで買っておけば、値上がりが期待できるのではないか?」というアイデアにたどりつきますよね。とはいえ、どの企業がいつ中計を発表するかについては、具体的なスケジュールが決まっているわけではありません。正確に狙い撃ちするのは難しいかもしれません。


ただ、あきらめるにはもったいないアイデアですので、本当に中計が出るかどうかは不明ながらも2022年度を最終年度とする中計を発表済みで、2023年度に新たに中計を発表する可能性があり、なおかつPBRが1倍割れとなっている企業をいくつかピックアップしてみました。


1社目はコニカミノルタです。同社は2022年度を最終年度とする中期経営計画「DX2022」を策定しています。通常であれば5月の本決算発表時に同時に中計についても発表する可能性が高いと思われます。PBRは3月28日時点で0.49倍となっており、プライム上場企業でもあるため、なんらかの施策を発表することが期待できそうです。


2社目は雪印メグミルクです。「グループ中期経営計画2022」では、変革(Transformation)を加速し、収益基盤を確立し、生産体制進化(Renewal)を始動していくステージと会社側では位置づけています。同中計での連結配当性向のめどは20%から30%と決して高いとは言えません。PBRは同0.58倍であり、是正が必要な水準でもあります。


3社目は住友電気工業。同社は中期経営計画(22VISION)を掲げており、そのなかでROIC9%以上、ROE8%以上を目標としています。ROEは22.3期末時点での5.7%となっています。PBRは足もとで0.7倍。これらの指標を改善するため、例えば自社株買いなどの株主還元策を実施する可能性が考えられます。


4社目はENEOSホールディングスです。こちらは5月の決算発表時に新中計を発表するもようです。前中計では総還元性向について、3カ年累計で在庫影響除き当期利益の50%以上としていました。同業のコスモエネHDが一足先に新中計を発表しており、そちらは総還元性向の目標を同60%以上、200円を下限に安定配当を実施するとの方針を決めました。ENEOSについても総還元性向の引き上げや安定配当などについて、発表があると期待したいところです。

日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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