日銀総裁交代で関心高まる「イールドカーブ・コントロール」とは?

4月9日、日本銀行の総裁に植田和男氏が就任しました。前任の黒田総裁時代からの金融緩和は、まずは継続すると見られています。引き継いだ課題のひとつ、イールドカーブ・コントロール(YCC)の解除に関心が高まっています。個人投資家の皆さんも、ニュースで見聞きする言葉ではないでしょうか。


「聞いたことはあるけど……イールドカーブ・コントロールって、何でしたっけ?」 はい。では簡単にご説明しましょう。


イールドカーブとは


「イールド」は「利回り」。「カーブ」は、残存期間が異なる複数の債券を残存期間の順に並べ、利回りとの関係をグラフに示したときに現れる曲線です。


通常、債券の利回りは、期間が短いと利回りが低く、長いと高くなります。例えば、2年で償還する債券と、償還まで10年の債券では、10年の方が高利回りになるのが通常です。


その理由は、投資家が債券を購入して償還まで保有する場合、償還までの期限が長いほど、その資金を使えない期間が長いからです。資金が使えない見返りに得られる金利は、期間が長いほど高くなるのが自然です。そのため、イールドカーブは基本的には【グラフ1】のようになります。



一方、償還までの期限が長い債券の利回りが短期のものより低い場合、イールドカーブは右肩下がりの逆イールドになります。



【グラフ2】は、1990年9月18日の国債利回りのイールドカーブです。この前年の大納会は、日経平均株価が史上最高値を付けたバブル絶頂期でした。1990年になると株価は下落、8月には湾岸戦争が始まりました。その秋、残存1年の国債利回りが8.6%を超えていた、金利のピーク時です。金利の先安観が広がり、残存年数が長くなるほど利回りは低い、逆イールドになっています。


「イールドカーブ」が理解できたところで、いよいよ「イールドカーブ・コントロール」の説明に入りましょう。


長期金利さえも金融政策の対象に


イールドカーブ・コントロールは、日本語では「長短金利操作」といいます。2016年9月の日銀金融政策決定会合で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が導入されました。


具体的には、10年物国債を大量に購入して利回りを一定の幅に抑え込み、イールドカーブの形をコントロールするという政策です。当初は、「短期金利の代表である日銀の当座預金のうちの政策金利残高を、マイナス0.1%」に、「長期金利として10 年物国債金利が概ねゼロ%程度」となるようなコントロールでした。


詳しい方は、「金融政策は、短期金融市場で行なわれる」ということをご存じだと思います。古くは公定歩合がその役割を担っていました。現在は、「無担保コール翌日物金利」と呼ばれる短期金利の目標を掲げ、その水準に誘導する形の金融政策です。他の国や地域でも、中央銀行の金融政策は短期金融市場で実施されています。短期金融市場は、金融機関同士で資金を貸し借りする場。そこでの金利が短期金利です。


ですが、短期金利だけでなく長期金利にまで中央銀行が加入するという金融政策は、極めて異例です。


10年物国債は国債の中でも圧倒的に流通量が多く、金融機関のみならず、事業法人や個人も売買しています。本来はこれらの投資家の売買によって利回りが上下します。市場の原理にゆだねて、投資家の需要と供給で利回りが決まるはずなのです。しかし、日銀が国債を大量に買い付けることで、10年物国債利回りをコントロールしています。


なぜイールドカーブ・コントロールが導入されたのか


では、なぜ、イールドカーブ・コントロールという政策が導入されたのでしょうか。


導入直前は、マイナス金利政策の副作用が強く出ていました。短期金利のマイナスだけで良かったのですが、10年物国債利回りまでもがマイナスになってしまったのです。


当時のイールドカーブは、短期から長期までほぼ横ばい。「フラット化」と呼ばれる現象が起こっていました。フラットだと金融機関の収益が上がりません。金融機関の預金と貸し出しの業務は、短期金利でお金を仕入れて、長期金利で顧客にお金を貸し、利ザヤが収益になるからです。右肩上がりの勾配が高角度であるほど、銀行などの金融機関は利益が上がります。


また、長期金利がマイナスでは、生命保険会社や年金基金などの運用も利益が上がりません。


フラット化していたイールドカーブを右肩上がりにするため、イールドカーブ・コントロールが導入されました。


金融政策とイールドカーブの変化


イールドカーブ・コントロールが導入されてから6年半。その間のイールドカーブの変化を確認してみましょう。


【グラフ3】で、財務省が公表している国債金利情報を使い、金融政策の主なタイミングにおけるイールドカーブを作成してみました。財務省の金利情報は、1年から10年までが1年ごと。10年以降は5年刻みです。11年から14年までのデータが空白のため、グラフの作成上、10年と15年の間は按分しました。



イールドカーブ・コントロールが導入された2016年9月の折れ線グラフは、ピンクで示しています。2021年3月の会合では、「10年物国債金利を、ゼロ%の上下0.25%の幅で推移するように」と政策がマイナーチェンジされました。記憶に新しい2022年12月の会合では、「10年物国債金利がゼロ%の上下0.5%の幅で推移するように」と幅が広げられました。


グラフをご覧になって、みなさんはどのように感じますか? 2022年12月のグラフは、残存8年から10年までの金利が横ばいです。力づくで抑えているように見えるのは、私だけでしょうか。


参考:財務省「国債金利情報」



ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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