2025年の春闘(春季労使交渉)において、海運業界が大幅な賃上げを継続しています。3月25日に配信された日本経済新聞電子版の記事によれば、日本郵船は4月から基本給を平均で約13%引き上げるベースアップ(ベア)を実施するもようです。
同社は2024年に15%のベースアップを含む18%もの大幅な賃上げを実施しました。これは過去最高の賃上げ率で、今年はそれには及ばないものの2年連続で2けた増と高水準の賃上げが続いています。既存の社員だけでなく、25年卒の新入社員の初任給も9700円増の33万3000円にするとしています。
商船三井は約8%のベアに加え、住宅手当を倍以上に増額するもようです。ベア8%は前年の14%は下回るものの、職位に応じて付与される住宅手当を月1万3万円から月4万~6万円に増額。25年4月入社の大卒社員の初任給は2万2000円増の33万7000円となる予定です。
川崎汽船は日本経済新聞社の取材に対し、「まだ妥結しておらず回答は控える」と回答しているようですが、人材獲得のためにある程度は追随してくることでしょう。
連合が3月21日に発表した第2回の回答集計ではベアと定期昇給を合わせた賃上げ率の回答平均は5.4%でした。ベア率を開示している企業のうちベアのみで2ケタの回答企業はほかになく、海運会社の賃上げがどれほど高水準かがわかります。
海運各社が大幅な賃上げを実施しているのは、それだけ人材確保が難しくなっていることもありますし、賃上げが可能な好業績が続いていることも影響していると考えます。
海運業はコロナ禍の際、サプライチェーンの混乱によりコンテナ船運賃が急騰したことで、非常に好調な業績となりました。
その後、コロナ禍が落ち着いてきたことでコンテナ運賃も下落していくと想定されていましたが、ウクライナやロシア、そしてイスラエルなどの各地で戦争、紛争が相次いだことで事情が変わりました。
フーシ派による封鎖活動などから紅海情勢の悪化したことでスエズ運河が使えなくなり、各船がより時間のかかる遠回りのケープタウン(喜望峰)経由に航路を変更。その影響から海上運賃が想定ほど下がらず、海運各社は業績好調が続いています。その分、それを社員に還元する余力があるとも言えるでしょう。
日本郵船の平均年収ですが、有価証券報告書によれば、2024年3月期が1379万円。2023年3月期が1322万円。2022年3月期が1082万円。2021年3月期が955万円。2020年3月期が934万円となっています。
国税庁の「令和5年分民間給与実態統計調査」によると、平均年収は460万円ですから、かなりの高水準と言えます。日本郵船の社員には海上職と呼ばれる社員が含まれていることも平均給与が高い要因であると思われます。
海上職とは大型船舶に乗り、運航をコントロールするプロフェッショナル職です。エンジンをはじめとした船の機関を預かる機関士や、操縦や積荷の管理を行う航海士などが含まれます。
それぞれ海技士の国家資格が必要であるほか、長期間にわたって船上で生活しなければなりません。しかも、航海中は常に動いているわけですから、その間は24時間体制で交代しながら勤務する必要があることなどから、給与が高水準になることもうなづけます。
さすがに来年も2ケタのベアはないかと思いつつも、どこまでこの勢いが続くか見てみたいですね。