「元本保証」がリスクに? インフレ下の資産運用

「投資はしなければいけませんか?」と聞かれることがあります。いいえ、しなければいけないものではありません。ただ、そのような質問をするぐらいだったら、投資に向いていない方かもしれませんね。そもそも、投資は自分の頭で考えなければできません。


「元本割れが嫌なんです」と言われることも多いです。元本って何ですか? おそらく、預けた金額のことを指しているのでしょう。では、仮に、 5年間定期預金に預けている間に物価が上がり、5年前と同じ商品を同じ数量買えなかったとしたら? それは許せるのでしょうか。まさにそれが今、元本保証の金融商品がインフレに負けている時代なのです。


元本保証の金融商品が安心だったワケ


株式や外貨建ての金融商品は、資産価値が変動します。債券も、途中で換金する場合は時価ですから、償還前に換金する場合は価格変動リスクがあります。これらを組み合わせたパック商品である投資信託も、基準価額が日々変動します。


デフレが続いていた間は、これらの金融商品が持続的に値上がりする時期ではありませんでした。デフレは、お金の価値と比べてモノやサービスの価格が値下がりし続ける状態です。お金の価値を基準にすると、デフレの期間は、物価と同じでこれらの金融商品の価値も値下がりしていました。


では、それを裏返して、物価を基準に考えてみましょう。


物価に比べてお金の価値が持続的に高くなっている状態がデフレです。このようなときは、物価と同じように投資した金融商品と比べても、お金の価値が高くなっています。現金を持っている方が有利。現金の価値が高い状態が続いているわけですから、預けた数年後に預けた金額(高い価値のお金)が維持されている金融商品が有利なのです。


運用のゴールとして考えたいこと


このように考えると、資産運用をしている間の経済環境は、かなり重要です。そのうえで、その資金を「いつ頃使いたいのか」という自分自身の時間軸を重ね、経済環境に見合った運用先を選ぶ必要があります。


「損をしたくない」という方の多くは、「運用開始時と終了時に同じ金額であること」に意識が向いています。けれど、預金でも投資でも、最終的にはお金に換えて何かを消費するはずです。金融商品選びの際には、運用後にその資金で買いたいものに見合う価値で換金できることが重要なのではないでしょうか。


ただし、日常の生活費として使いたいお金は、「すぐに引き出すことができる」という点が重要です。価値という観点は優先度が低くなり、現金化しやすく引き出しやすいという点が選択基準になるでしょう。


「元本保証・確定利回り」はむしろリスク?


物価を基準にし、さらに「資産運用のゴールは消費」を念頭に置くと、物価変動の重要性が理解できるかもしれません。


例えば、5年後に大きな出費を予定していて、そのための資金を元本保証の預金に預けていたとします。100万円を預けて、5年後に100万円の元本と百円ほどの利息がついて満期を迎え、めでたしめでたし……でしょうか?


もしも政府・日銀が目標としている年率2%の物価上昇が5年間続いたとします。年率2%の物価上昇の下では、お金の価値は【グラフ】のように、年々減少します。物価を基準にすると、5年後の100万円は、現在の82万円程度のものしか買えなくなります。




だって投資は値下がりすることもあるでしょう?


確かにその通りです。


ではおっしゃる通り、5年間運用した金融商品が値下がりしたとします。お金に比べて金融商品の価値が下がっている状況です。冒頭に説明したように、このようなときの多くは、お金に比べてモノやサービスの価値も下がっています。


ところで、皆さんは「100円バーガー」を覚えていますか? 2014年4月、私たちは大手ハンバーガーチェーン店のハンバーガーを税込み100円で買っていました。250円で牛丼が食べられました。980円でも品質の良いTシャツを買うことができました。


そのようなデフレ真っただ中の頃、「投資で損をした」という経験をした方も多いはず。けれど、損切りした資金で手に入れたモノやサービスも安かったのではないでしょうか。お金は、いつか何かを買うためにあるもの。同じ商品が同じ数量、手に入るのならば、トントンといえます。


資産運用の後に換金する金額と消費する金額が、相対的に同じような変動なら、それほど大きな問題ではありません。お金にばかり目を向けているから「投資元本が減ってしまった」と心を痛めてしまうのです。


もちろん、コンスタントに物価が上がり続けるわけではありませんし、再び長いデフレに戻ってしまうかもしれません。けれど、どのような場合にでも対応できるような柔らかい頭を持つことが大切です。また、どのような状況になっても救われる資産があるようにするために、分散投資も重要です。



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ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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