水素時代到来? 15兆円投資の影響力

水素基本戦略を5月末をめどに改定


政府は4月4日、脱炭素社会の実現に向け、水素や再生可能エネルギーに関する関係閣僚会議を開き、水素の供給量を2040年までに現在の6倍に増やすことを検討するとの方針を公表しました。


岸田首相は同日、「脱炭素の突破口として期待される水素について、水素基本戦略を5月末をめどに改定する」と表明。改定される水素基本戦略では、水素の供給量を現在の200万トンから1200万トン程度に引き上げることを検討するとしています。


そのため、今後15年間で官民合わせて15兆円程度の投資を呼び込み、オーストラリアなどと連携して、サプライチェーン(供給網)の構築支援を加速させる方針とのことです。地球温暖化が問題視され、その要因とされる二酸化炭素を削減しようとする「脱炭素」の取り組みは近年、世界中で課題となっています。そのなかで、水素はなぜ注目されているのでしょうか。


環境省のホームページによれば、次の4つを理由として挙げています。


1 環境負荷の低減

水素は利用時に二酸化炭素を排出しないため、環境負荷を低減できます。再生可能エネルギーからつくる水素はさらに二酸化炭素の削減効果が期待できるとされています。


2 産業の活性化

地域の資源からつくった水素を、地域で利用することができれば地域の事業者が参画でき、地域産業の活性化につながります。


3 エネルギーとして貯蔵が可能 災害時にも活用

作られた水素は、タンクなどで貯蔵することができます。貯蔵した水素は、必要な時に燃料電池などを通じてエネルギーとして活用ができ、災害時の活用や再生可能エネルギーの出力を調整することも期待されています。


4 電気と熱の2つのエネルギーを供給できる

水素は燃料電池を通して電気エネルギーだけでなく熱エネルギーも供給できるため、エネルギーの有効利用が可能。


こうしたさまざまな利点がある水素ですが、現状では普及が進んでいません。大きく分けると理由は2つ。水素そのもののコストが高いこと。そしてもう一つは、水素をエネルギーとして活用するためのインフラが整っていないことです。そのため、水素を活用するためサプライチェーンを構築することが重要だとされているのです。


政府による新たな水素基本戦略がまとまるのは5月末とされており、まだ詳細はわかっていません。しかし、株式市場は内容が明らかになる前から、それを織り込むような動きが始まっています。ここからは、報道を受けていち早く株価に動きのあった銘柄をいくつか紹介します。


水素関連銘柄の値動きに注目


1社目は産業・家庭用ガス専門商社の岩谷産業です。LPガスが主業務ですが、水素事業を育成しており、水素といえば同社、という認識も広まりつつあります。


2023年3月にはコスモエネルギーHD傘下のコスモ石油マーケティングと水素ステーション事業協業のための新会社「岩谷コスモ水素ステーション」を設立。また、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)やENEOS,川崎重工らと共同で取り組んでいる液果水素サプライチェーンの商用化実証についても、進ちょく状況を公開するなど、水素関連に関する取り組みを継続して発表しています。


そんな同社の株価は足もと、前述した政府による水素基本戦略の改定なども支えに上昇基調。年初来高値圏で推移するなど堅調な値動きが続いています。


岩谷産業日足チャート


2社目は加地テックです。こちらは水素関連の話題が出ると、物色されることが多い中小型株で、燃料電池車用水素設備などを手がけています。足もとの株価は年初来高値4660円を付けたあと、調整し3000円台後半での推移となっていますが、5月末の改定に向けて、再び上値をうかがう展開になると予想しています。


加地テック日足チャート


3社目は山王です。こちらは主に電子機器用コネクターのメッキ加工を手がける企業ですが、水素透過膜などについても取り扱っており、株式市場では水素関連銘柄の一角とされています。同社も4月初旬に動意付き、株価が上昇する場面がありました。


山王日足チャート


今後は、改定される水素基本戦略の詳細、例えば15年間で官民合わせて15兆円程度の投資を呼び込むとした中身などに注目が集まると考えています。企業からの投資を呼び込む具体策や政府としてどんな分野に注力していくのか、その方針が明らかになることで関連銘柄もさらなる上昇が期待できそうです。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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