2023年4月10日、世界を席巻するChatGPTを開発・提供するOpenAI社のサム・アルトマン氏が日本を訪問し、岸田総理と面会しました。同氏は日本拠点の開設を示唆し政府と連携する意向を示しています。世界の注目度が高いなかアメリカでも中国でもインドでもなくなぜ日本なのでしょうか。日本として注意すべき点とこの売り込みを上手に活用するための可能性が読み取れます。
ChatGPTが日本語を重視するのは警戒されていないから?
なぜ人口規模としても世界上位ではない日本なのでしょうか。またスペイン語やポルトガル語のように国の規模は限定的でも、かつての歴史から幅広い国で使用されている言語ではないのでしょうか。そこにはChatGPTへの警戒感が見てとれます。
2022年11月に公開されたChatGPTには現在、強い逆風が吹いています。イタリアでは2023年3月、個人データの収集方法を問題視し、同国でのChatGPTのサービス停止を命じました。カナダにおいてもOpenAI社への調査を始めたと報道されています。
ChatGPTが既存の産業や社会に影響をもたらすからではなく、既存のルールを遵守できていないから、という理由が目立ちます。世の中が自由経済である以上、ChatGPTが私たちの仕事を奪うから、との理由で制限するのは困難です。では、なぜ日本は同社首脳を歓迎しているのでしょうか。
アルトマン氏を迎えた自民党首脳の発言を拾うと、問題点があることは理解できているもののそれが顕在化されてはおらず、「今後問題があったら解決していこう」というスタンスが目立ちます。これは世界進出を狙う同社にとって大歓迎の姿勢です。
日本で実績を作りながら欧州各国で指摘される問題をひとつずつ解決し、同時に社会実装の実績を共有する。まさにインターネットが広まった黎明期が繰り返されているような印象を受けます。
日本の事業会社はAPI化を活用して先行事例をつくりたい
使用ルールを求める声が本格化するならば、日本も対応を考えるべきです。ただ、仮に日本が共存方針を取るとすれば、筆者は国内の事業会社にとっては歓迎すべき事態であると考えます。
外国生まれの方々にとって習得が難しいとされる日本語と、その日本語で成り立っている社会がどのようにAIで再実装されるのか。問い合わせの窓口や電話対応、再現性の高いルーティンの仕事など、ChatGPTが人力に代替できるのではと指摘されているところは数多くあります。
それが机上の論理ではなく、何が実装できて、何が出来なかったのか。可視化すれば日本はChatGPTに限らずAIの社会実装という意味で、先行データを取得することができます。
OpenAI社が個人情報の管理で問題あるならば、他の競合でこの取り組みを進めるのも選択肢です。新興産業では「外国では成功したが、日本ではどうか」という後者の立ち位置を努めることが多い日本ですが、この分野は「日本(語)では成功したが、わが国ではどうか」と前者をポジションとすることができます。経済発展のエンジンに悩む日本にとって、とても歓迎すべき事態といえるでしょう。
諸外国から軽蔑される防御力の低さは避けたい
この使い方はChatGPTを使いこなしている印象を持ちますが、一方で欧州で懸念事項とされているところに対する議論が進まなかったり、賛成派と反対派で議論ばかりして物事がいっこうに進まない事態は避けたいものです。
日本は狭義の結果、玉虫色に収める傾向がとても強いため、とても気にかかっています。商魂逞しいアメリカのベンチャーに攻め込まれ、防御力の低さだけが喧伝される事態になるのは避けたいものです。OpenAIのトップの姿勢を見ていると、既に日本に決断力が無いことは見抜かれてモタモタと協議しているあいだに拠点建設などの実績を作ってしまおうという先読みの鋭さを感じます。
それぞれの分野の事業者としては「社会への悪影響は国が政府が考えるべきだよ」ではなく、自分たちの×ChatGPTのビジネスがどうすれば途中で縛りを受けないか、現行法などを紐解きながら考えていくと同時に、競合を抑えリーディングとなっていくことが必要です。データ管理や著作権法などの専門家が重宝されそうな気配を感じます。
筆者はライフプランのコンサルタントなのでChatGPTに対しては警戒ではなく、どう組めば価値最大になるかの視点で見ています。一方で独立時の祖業である執筆業としては、まさにChatGPTが最大の競合となる立場です。仕事が無くなると騒がないようにしようと日々利用方法を練り続けています。
社会を変える可能性が高いChatGPT、読者の皆様の利用計画と防御姿勢はいま、どの段階でしょうか。またどのようなレベル感で、投資対象に上っているのでしょうか。