国民的アニメの主題歌に「買い物に出たけれど、財布を忘れて、愉快なサザエさん」という歌詞があります。3年前ならば自宅に取りに戻る一択しか無く、疑問の余地を挟む人などいませんでした。
今は違います。PayPayに代表される電子マネーがあるおかげで、スマートフォンがあれば買い物に何も不自由がない毎日です。ところが小売店の店舗によっては、この電子マネーを使うことができないお店もあります。社会インフラとして認められる電子マネーを使えない店舗には、どのような思惑があるのでしょうか。
電子マネーの手数料は誰が負担しているのか
利用者が1,000円の買い物をし、PayPayで支払ったとします。まずはこの時のお金の動きを見ていきましょう。
利用者がICカードやスマホを通して商品代金を支払うと、加盟店は決済処理を行い、その情報を決済代行会社に送られます。決済代行会社が決済処理を行うと、電子マネーサービス提供会社が確認し、決済代行会社を通じてお金が入る仕組みです。顧客が代金を支払ってから、加盟店に入金されるまではタイムラグが生じます。
この仕組みからわかることは、利用者が電子マネーを利用するうえで「上乗せの費用」を支払っていることはありません。加盟店が手数料を引かれたうえで、電子マネーで決済された商品の料金を受け取っています。
電子マネー決済の手数料
電子マネー会社や加盟店の規模にもよりますが、交通系(Suica・PASMOなど)や流通系(nanacoやWAONなど)の手数料は3%から4%が相場です。
従来から買い物のインフラにはクレジットカード決済がありました。一般的にクレジットカード決済は、1%から10%と知られています。取引回数の多い大手店舗の場合は1%でも、個人経営の店舗では4%から7%の手数料が取られることもあります。
そのため、数年前はクレジットカード決済を利用できず、現金のみという店舗も存在しました。そこでクレジットカード会社は、「社会インフラ化」を目指します。理想は、クレジットカードが使えなければ、「え、現金のみ!?」として購買の意思決定に影響が出る状況です。クレジットカードが社会インフラ化した今日、同じように次世代のインフラ化を目指しているのが、電子マネーといえるでしょう。
敢えて現金決済とすることで顧客に還元するロピア
以前当メディアで、いま最も(株式)上場に近いスーパーとして「ロピア」を取り上げました。
ロピアの特徴のひとつが現金決済です。電子マネーの会社が確保する手数料の数%を回避し、その分利用者の支払額を減らすことで、競合他社に対する優位性を構築することができます。
つまり利用者は、相対的に数%高い代わりに「財布を持たずに買い物できる環境」を選ぶか、忘れずに財布を持つことで、数%の割引を享受するかを選択できるという状況です。これだけ数多くのスーパーが立ち並ぶなかでは、10数円でも安いこともまた、店舗選びの決定要素となります。
いかに「余計な買い物」を誘引するか
これが「特定の商品を購入するため『だけ』に利用する店舗」ならば、手数料還元の意味合いは薄くなります。10万円の買い物をするときに、電子マネーの決済有無を確認する利用者はほとんどいないでしょう。
ご飯を買いに行って、ぐるぐると店舗を回っているうちに調味料がない、明日の朝ごはんが無い、お酒も買わなきゃいけないとなる。このような余計な買い物を誘引するために、利用店舗による電子マネー決済料の負担があります。
言い換えればロピアなど電子マネー不可を選択する会社は、この「余計な買い物」を電子マネー以外で実現する自信を持っている会社といえます。電子マネーがなくても顧客を誘引することができれば、手数料分は顧客に還元する体力となるか、そのまま店舗の利益とすることができます。
物価上昇とともに「1円」を重視する社会
現在、日本は物価上昇期を迎えています。消費者のなかには、複数の店舗を比較してでも毎日の買い物を100円、200円減らすことを意識している方も多いでしょう。そのなかで電子マネーが使えないのは不便でも、相対的に安値が恒常化している店舗があればどうなるか。会社の帰り、敢えて現金のみの店舗に寄ることが当たり前になった状態が、ひとつの結論なのかもしれません。
ただ最後に補足するならば、電子マネー会社の「凄み」です、PayPayの導入期がそうであったように、「当面は加盟店からも手数料は取りません!」という一大キャンペーンを張る可能性があります。そうすると加盟店に顧客が戻る余地が生まれ、キャンペーン期間終了後もその優位性が変わらない状況を作り上げることができます。今日はまさに電子マネーを刀にした、仁義なき戦いの前夜かもしれません。