深刻な少子化が賃貸アパート市場に与える想定外の影響

2023年3月、岸田内閣は異次元の少子化対策を発表しました。正常出産への公的保障開始や児童手当の所得制限撤廃などが主な施策です。


現在、日本は1年に約79万人が生まれ、約143万人が亡くなっています。単純計算で64万人が減少している計算です。これは各県において第2、第3の中核都市が丸ごと無くなっていることに相当します。


深刻な少子化が賃貸アパート市場に影響を与える


少子化が進行すると、日本における人口動態が三角形からひょうたん型、そして逆三角形へと移行します。少子化は10数年スパンで現役世代の減少と直結します。国レベルで少子化による影響を考えると公的年金制度や健康保険制度の財政ひっ迫やGDP(国内総生産)の減少などが懸念されますが、いわゆる短期的な個人の財産にはあまり影響はありません。


強いて言うならば少子化関連のニュースにショッキングな印象が強く、その領域での投資信託の基準価格や単元株が下落することが予想されるくらいでしょうか。


そのなかに唯一の例外があります。先祖から承継した土地を活用する賃貸アパートの経営です。自分で土地を購入するケースに比べ、300㎡以上と大規模になりやすいものです。


1億円以上をかけた安定収益の前提がゼロになること


賃貸アパートは先祖から承継した土地に建物(上物)を建築し、入居した貸借人からの家賃と収益とします。建築においては金融機関などからアパートローンを借り、家賃収益から分割返済していく流れです。


想定通りの入居率が維持できれば安定性の高い資産運用になるものの、万が一の空室リスクも避けられないという、比較的リスクの高い運用という側面も持ちます。


とはいえ、建築する土地にそれだけの収益見込みがあるかは建築前に入念に確認しますし、専門家の見解を聞く機会も設けることができます。賃貸アパートの上物を建築する費用は物件にも依りますが、1億円超えも珍しくはありません。20年も30年もかけて建築費用を返済していく、息の長い運用です。


財政が安定している大企業の大型工場や、大学が移転してくることが決まると好機と捉え、建築リスクを背負って賃貸アパートを建てる方も多いです。


上物を建てることによって、その土地に対する固定資産税と都市計画税が軽減されるメリットもあります。では工場や大学誘致によって生まれた土地への恩恵は、何があっても変わらない永久的なものでしょうか?


少子化により現実的になる広大な大学の撤退


2023年4月4日の読売新聞が、少子化で定員割れの大学が相次いだことを受け、私大の新設抑制を打ち出しました。今回の抑制策はあくまで全面新設ですが、この流れが進むと複数のキャンパスを持つ大学の撤退も可能性が生じてくるでしょう。


東京を例に出すと、大学の多くは交通インフラの整った都心にキャンパスを構える一方、都心から移動に1時間以上かかる関東各県との県境に広大なキャンパスを有しています。地価の低さや運動施設の設置余力などが大きな理由ですが、広大な分固定資産税なども高額です。


また建設ラッシュの1980年代、1990年代と比べ近年は都市化が進み、生活コストも上がっています。東京都以外への更なる移転という経営判断を各大学が下してもおかしくはありません。


その判断を下したときに、継続的な在校生や新入生からのニーズを期待して建築したワンルームの需要も著しく下落します。とはいえアパートローンを組んでイニシャル費用を投下した物件である以上、大学が移転したから辞めますが通じるものではありません。


賃貸アパートの投資は少子化を考慮する


大学と同じようなリスクを持つ賃貸アパート建築に、大企業の工場などによる大型雇用のケースがあります。この場合も近隣で土地を有して賃貸アパートを建てたはいいけれど、工場の撤退などにより期待していた入居率を維持できなくなる状況です。


少子化とは違い、この部分は予想できないものです。たとえ決算書で撤退リスクがないか検討したとしても、決算書の数字と工場撤退の経営判断はイコールではないですし、そもそも建築アパートが回収期となる20-30年間は現時点の決算書では分析できません。


これに対し、少子化はまだ先読みできるものではありません。たとえば相続で承継した土地の近くに大学があるからアパート建てても安心というわけにはいかないでしょう。


少子化による撤退リスクを踏まえたうえで、撤退したとしても都市として十分な収益が得られそうかを考えて意思決定していきましょう。そのリスクを考慮しているか否かにより、間取りや事業計画も変わってきます。


資産運用領域にとってはこれまで当たり前だった前提が覆ることが何よりもリスクです。いざイニシャル費用を投下してしまってから、その当たり前が変わりましたといわれても、リセットできる可能性は限りなく低いものです(売却などがあるため0ではありません)。


流動性が低い分、世の中の趨勢も踏まえた運用方法で何がベストなのかを、常に考えていきたいものですね。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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