一時代を築いたイトーヨーカドーが苦しんでいます。北海道や東北では全面撤退を決め、うち北海道内の6店舗を「ロピア」を展開するOIC(オイシ―)グループが引き継ぎました。南の地においてもロピアの勢いはとどまらず、2024年3月25日にロピアの沖縄1号店がオープンしました。「ロープライスのユートピア」が店名の由来です。
上場に近いといわれるスーパーロピア
ロピアの強みの1つは独自の立ち位置です。先日業務スーパーを運営する神戸物産の記事を書きましたが、ロピアは業務スーパーと、イトーヨーカドーのような一般向けスーパーの中間の業態として展開しています。
たとえば両親と子ども2人向けの総菜が1,000円から1,200円台と、大容量販売が目立ちます。このような販売形式は少量でパックするより作業量を抑えられるうえ、包装資材も節約可能です。
一方で黒毛和牛のような高級感のする食材も店舗には並んでいます。その時のお財布の状況に合わせ、ディスカウント型スーパーと高級スーパーの2つの顔を持つ店舗です。そうすることによって、「ロピアに行けば何かしら(食材が)ある」という期待値が生まれ、来店動機につながります。
この時代に敢えてキャッシュレス戦略を取らないスーパー
ロピアのもう一つの特徴が、この時代に敢えてキャッシュレスの戦略を取らない点です。ほぼすべての店で、店側に手数料負担がかかるクレジットカードや電子マネーの決済は導入していません。
PayPayをはじめとした電子マネーの拡散と、国が後押しするキャッシュレスの戦略を見ると、日本の小売業者すべてが電子マネーを導入すべきなのではないかという錯覚に陥ります。一方でロピアに限らず現金のみとすることで、店側の収益を安定させる効果があります。品揃えなど小売店としての自店の特徴に自信を持ち、「電子マネーが無くても大丈夫」という確固たる自信が無ければ、なかなかこの判断を取ることはできないでしょう。
ロピアに弱点はあるのか
飛ぶ鳥を落とす勢いのロピアですが、弱点はあるのでしょうか。
まず最初の懸念点は、同様のスタンスを取るスーパーが多いということです。業務スーパーはもとより、同じ割安ディスカウントの姿勢を取るオーケーやヤオコーなど、ロピアに対して競合となり得るブランドは数多く存在します。
差別化といっても曖昧なもので、利用者の数だけ「どのスーパーが好みか」という嗜好は存在します。たとえば筆者は東京都の調布市に居住していますが、オーケーをはじめとしたスパーが5.6店ある激戦地です。ここにロピアが進出したとします。最初の1年は物珍しさにロピアに客が流れるとは思いますが、底力と先行者利益のある世界で、1年後に勢いを持続できる可能性は100%ではありません。
各業者の「製造者への圧力」はいつまで通じるか
誤解を招く見出しですが、ロピア特定の話ではありません。格安ディスカウントスーパー共通の課題として、1円でも顧客提供価格を削るための強権的な姿勢が問題視されています。
たとえば一般的な相場だと適正価格が700円であるお弁当を、競合優位性のため500円で販売するとします。差額の200円は薄利を受け入れながらも、販売数を確保することで利益に変えます。この取り組みにも限界があり、原材料を納品する下請け業者に対し、徹底的な切り詰めが行われています。
小売店を特集するテレビ番組では以前よりこの方法を、「圧倒的な利益を生む方法」と持ち上げていました。ですが、どちらかというと現在は問題視される傾向が強いです。当然ですが下請けにも従業員がいて、その生活には物価上昇の現状があります。「お弁当が500円で食べれたね、良かったね」の価値観だけではなくなります。
フェアトレードを意識した経営を期待
最近注目されているこれらの状況を示す言葉が「フェアトレード」です。お弁当の製造ひとつに関連する、さまざまな立場の人間が不利益を被らないようにする概念です。二国間の国をまたぐ商品製造も対象になれば、今回のようなお弁当造りにも反映できる言葉です。
人口が減り、かつ現役世代が減っていく日本社会のなかで、どこまでフェアトレードを遵守しながら顧客に最低限の価格を提供することができるのか。また提供価格ではなく高級路線を取るにしろ、たとえば料理アドバイザーのようなサービスを開始して差別化を図るにしろ、展開にはコストがかかります。投資家としては安い凄いではなく、それらの取り組みを見て、人口減少社会を勝ち抜くスーパーとして期待したいところです。
ロピアはいま、小売業界の新世代の旗手として「最も上場に近いスーパー」といわれています。高度経済成長期に急発展したダイエーなどと比較したとき、この人口推移で急成長するのは本当に凄いことです。だからこそフェアトレードも意識した、企業としての魅力熟成に期待したいと思います。