国産初の量子コンピューターの稼働開始
理化学研究所は3月27日、国産初となる量子コンピューターの稼働を開始しました。
米IBMが2021年に神奈川県川崎市で国内初の量子コンピューターを設置しましたが、国産機の稼働は初となります。
開発には、産業技術総合研究所、情報通信研究機構、大阪大学、富士通(6702)、NTT(9432)などが参画しました。
開発した量子コンピューターは極低温に冷やし、電気抵抗をなくした超電導の回路で計算する技術方式を採用しています。
計算の基本性能で性能の目安となる「量子ビット数」は64となり、米IBM製の27量子ビットを上回ります。
同日よりネットを介したクラウドで公開し、企業や大学は当面、理化学研究所と共同研究契約を結ぶことができます。
富士通も23年度中に量子コンピューター開発予定
量子コンピューターは、スーパーコンピューターの1億倍以上の速さで問題を解くなど、短時間で複雑な問題を解く可能性を秘めた次世代型の高速計算機となります。
自動車や金融、化学、製薬など幅広い産業で活用されることが期待されています。
これまで世界の量子コンピューター開発は米中が主導してきましたが、技術確立の途上で動作が不安定なため、計算時にエラーが生じるなど技術的な課題を多く抱えています。
完成形に達するには100万規模の量子ビットが必要との見方がなされています。
理化学研究所からの技術提供を受け、富士通も2023年度に64量子ビットのコンピューターを開発する予定。さらに2026年度以降に1000量子ビットの実現を目指しています。
また富士通は富士フィルム(4901)や東京エレクトロン(8035)と連携して用途開拓に取り組む方針を示しています。
日本勢はコンピューター開発と用途開拓への取り組みを併せて加速し、米国や中国の追撃を図っています。
今秋にもIBMが最新鋭の量子コンピューター設置
4月21日、東京大学は今年秋にも川崎市に米IBM製の最新鋭の量子コンピューターを設置することを明らかにしました。
「量子ビット」は127と従来の5倍となり、国内で最高となります。
米IBM製の量子コンピューターは、協議会に参加しているトヨタ自動車(7203)、ソニーグループ(6758)、三菱UFJフィナンシャルグループ(8306)など国内企業12社が利用しています。
実際、協議会に参加している三菱ケミカルグループ(4188)はリチウム電池、JSR(4185)は半導体向け材料の開発に関する研究を進めています。
幅広い産業で革新を後押しする可能性が高い
量子コンピューターは、化学や製薬、自動車、金融など幅広い産業の革新を後押しすることが期待されています。
具体的には、化学分野では新機能の素材を開発するほか、例えば10年程度かかっていた素材開発の期間を1年に短縮させること、などが期待されています。
製薬分野においては、画期的な新薬の開発を実現する可能性などが指摘されています。
また自動車分野では、自動運転の開発や生産効率化のみならず、渋滞解消など自動走行時の走行ルートの最適化など、有効に活用する余地が大きいとみられています。
さらに金融分野では、金融商品の価格算出やポートフォリオの最適化などフィンテックサービスの向上に寄与することが期待されています。
ボストン・コンサルティング・グループは量子コンピューターが2040年頃に最大8500億ドル(約110兆円)の価値を生むと予測しています。
量子コンピューターを使いこなせるかが、産業の競争力を左右するといっても過言ではなさそうです。
量子コンピューターが本格的に実用化されるのは先であり、米国や中国と比べ開発に出遅れた日本勢も巻き返しを図る体制が整いつつあります。
将来の産業への利用に向けた知見を蓄え、世界をリードしていくのか、企業を中心とした取り組みに注目していきたいと思います。