ダイバーシティで企業価値向上「なでしこ銘柄」

投資ビギナー向けに、「自分が応援したいと思える会社の株を買いましょう」と言われることがあります。お気に入りの製品やサービスを提供する会社を選ぶも良し、魅力的な経営哲学の会社を選ぶも良し。SDGsに積極的に取組む会社を選ぶ人もいるでしょう。


ダイバーシティ推進に積極的な会社は、長い目で見ると企業価値の向上につながります。経済産業省と東京証券取引所は、共同で女性活躍推進に優れた上場会社を「なでしこ銘柄」に選んでいます。


2022年度の「なでしこ銘柄」は


「なでしこ銘柄」は2012年度から毎年選定されています。11回目となる2022年度は、選定基準をリニューアル。経営戦略と連動した女性活躍推進を行う企業が選ばれました。


●経済産業省『令和4年度「なでしこ銘柄」レポート


従来のように女性活躍推進に関する取組みを形式的に確認するのではなく、自社の経営戦略の中で、女性活躍推進をどう位置付け、その取組みの成果をどのように企業価値向上につなげているか、企業独自のストーリーに着目して選んだそうです。


また、業種の枠組みも変更されました。2021年度までは27業種に区分され、原則1業種1枠で、相対的に会社数が多い業種は2枠設けられていました。2022年度の業種区分は、「TOPIX-17」の分類を利用して17業種に減ったうえ、1業種に1社の枠で狭き門になりました。


2022年度のなでしこ銘柄は【表】の通りです。


なでしこ銘柄は魅力的な投資対象


なでしこ銘柄レポートによると、2022年度になでしこ銘柄に選ばれた17銘柄の株価平均は、過去10年間のパフォーマンスがTOPIX平均と比べて2割程度高くなっています。


業績についても、なでしこ銘柄は優位です。2021年度通期の売上高営業利益率は、当時の東証一部上場銘柄平均が6.7%なのに対し、2022年度のなでしこ17銘柄の平均は9.3%。配当利回りも、当時の東証一部上場銘柄平均1.8%に対し、なでしこ銘柄平均は4.6%です。


応募した312社にも注目


じつは、なでしこ銘柄は、選ばれるのをただじっと待っているのではありません。上場会社自らが、経済産業省のなでしこ銘柄事業に応募するのです。


経済産業省の「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」に基づいた、定量調査・定性調査からなる「女性活躍度調査」に回答することで、応募となります。2022年度に応募可能な対象会社は、2022年10月14日時点でのプライム・スタンダード・グロースの各市場上場会社(外国株を含む)で、約3,700社でした。


そのうち、応募したのは312社(うち、定量調査票・定性調査票の両方提出:255社)。上場会社の10分の1にも満たないのです。裏返せば、「女性活躍度調査」の項目に回答できる上場会社は、まだその程度ということなのでしょう。


応募した会社名は、なでしこ銘柄レポートの巻末に記載されています。また、経済産業省は、応募した会社を「女性活躍推進に積極的」と表現。そのうち調査票のデータ公表に同意した会社の回答について、【令和4年度「なでしこ銘柄」定量データ一覧】で開示しています。


一覧では、女性役員・女性管理職比率や男性正社員の育児休業取得率などを確認できます。2022年度は新たな項目が追加され、成果がより詳しく把握できるようになりました。


また、「女性活躍度調査」の回答で特徴的な取組みをしている会社について、経済産業省のWEBサイトで「注目企業」として紹介しています。


2023年3月期以降、有価証券報告書に「人的資本」の記載が義務付けられました。なでしこ銘柄事業を通じて、女性活躍推進に関する情報開示を促す狙いもありそうです。人への投資は、「新しい資本主義」の実現に向けた重点投資分野の1つ。なでしこ銘柄を含む、女性活躍推進に積極的な312社は、人的資本経営の面で一歩リードしているといえるのではないでしょうか。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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