「NISAって、やった方が良いですか?」と、特に最近、よく聞かれます。NISAとは、少額投資非課税制度のこと。2024年からNISAが新しくなることもあり、それを機に、改めてNISAを始めるかどうかを検討している人も多いようです。
NISAをした方が良いかどうかを聞かれる度に、私はモヤモヤします。NISAを「するか」「しないか」以前に、考えることがあるからです。
NISAの前に、投資を「するか」「しないか」
NISAを「するか」「しないか」の前に、その人にとって投資をした方が良いかどうか、または、その人が投資をしたいかどうか、という問題の方が先です。
というのも、NISAは、投資性のある金融商品でないと利用できないからです。具体的には、上場株式や公募株式投資信託、ETF(上場株式投資信託)、J-REIT(上場不動産投資信託)です。
そう、定期預金や普通預金、定額貯金などの「預貯金」では、NISAは利用できないのです。お国としては、できるだけ税金を徴収したいところ。投資を促進したい面もあり、預貯金の利子は従来通り課税し、リスクを負って投資をする人を優遇する制度になっているのです。
NISAと投資の関係は、【図】のようなイメージになります。
「NISA」は制度の名前。金融商品の名前ではない
時々、「NISA」という金融商品があるように勘違いしている人をお見受けします。NISAは、前述したとおり、投資の利益が非課税になる制度の名前です。NISAという金融商品はありません。
NISA口座を開設した人は、上場株式や株式投資信託を買う際に、NISA口座内で買うか、課税される口座で買うかを選択します。注文時に「NISA口座」を選択して買えば、その株式が値上がりして売却する時に、利益が非課税になります。
一方、買うときに「課税口座(一般口座または特定口座)」を選ぶと、売却時の値上がり益は課税されます。なお、NISA口座を開設していても、注文時にうっかり「NISA」を選択し忘れて課税口座での買い付けになってしまうケースもあります。ご自身でよく確認するようにしましょう。
投資をするなら、課税されるより非課税の方が、税金の分だけ手取利益が多くなります。つまり、「投資をするなら、NISAを利用した方が良い」といえます。
では改めて、「投資をした方が良いの?」
「投資をするならNISAが良い」とすると、考えるポイントは「投資をした方が良いかどうか」に置き換わります。
投資をした方が良いかどうかは、一言では結論が出せません。主にお金について、その人の置かれた状況や考え方によるからです。
いままで、「投資元本が割れるような運用はイヤ」と思っていた人でも、このたびの物価上昇を経験して「インフレに負けない運用も必要かも」と感じ始めているのではないでしょうか。
株式投資や株式投資信託は、経済成長と連動するように資産価値が増減します。経済が停滞していた期間は、なかなか株価が上がらす、投資の成果が得られませんでした。けれど、同じように、モノやサービスを買う対価も上がりませんでした。運用資産が目減りしても、消費するものやサービスも値下がりしていたので、言葉は悪いですが、何とかなっていたのです。それが逆回転しているのが、現在です。
インフレを実感したり、老後の生活資金づくりなどで「長い年月の間には経済の波があるのだから、資産も変動する方が理にかなっている」と思えたりするなら、投資をした方が良いでしょう。
一方、資産価値の上下が気になって仕方がない、心配で夜も寝られないという人は、投資に向いているとは思えません。考えや性分が変わらない限り、投資をしない方が良いでしょう。また、日々の生活費がギリギリで、長期投資が難しい状況の人は、まず足元の家計管理を優先した方が良いといえます。
そのような人は、NISAの利用は慎重に検討した方が良いでしょう。
NISA口座が初めての証券投資、という人が増えている
日本証券業協会の調査では、証券会社を通じてNISA口座を開設した人のうち、投資未経験者の割合が年々高まっています【グラフ】。特に「つみたてNISA」では、2022年末の口座数のうち、それまで投資をしたことがなかった人の割合が約9割に上っています。
NISAという税金面で有利な制度のおかげで、投資のハードルが下がっていることは明らかです。だからといって「NISAはやったほうが良い」とは言い切れません。繰り返しになりますが、NISAを利用するということは、投資をすることだからです。
「みんながやっているからNISAを始めよう」と安易に考えるのではなく、NISAのメリットとデメリットを天秤にかけ、ご自身の考えを確認し、自分にとって必要かどうかを考えましょう。「NISAはやったほうがいいですか?」と尋ねる前に、NISAについて正しい情報を使って理解し、主体的に考えて頂きたいものです。
【参考】
日本証券業協会「NISA及びジュニアNISA口座開設・利用状況調査結果について」