住宅ローン金利に影響? 日銀の政策修正で何が変わった

7月27日、28日に日銀金融政策決定会合において、現在の金融緩和策を維持する一方、イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用を柔軟化することを決めました。


長期金利(10年国債金利)の誘導目標を「0%程度」とし、変動幅は±0.5%とするそれまでの枠組みを維持しつつも、長短金利操作をより柔軟に運用し、10年債利回りについて1.0%を超える場合は指値オペを実施し、それ以上の上昇を抑えるとしました。


0.5%から1.0%の間がグレーゾーンになったとも言えます。このこと自体については、日銀による表現もややあいまいであり、非常にわかりにくいという指摘を多く見かけますが、金融緩和の方針を維持しつつ、より現実に即した内容に修正するに際し、市場への影響をできる限り抑えようとしたための結果だと言えるでしょう。


そもそもイールドカーブ・コントロール自体がわかりにくい政策でもあるので、それに関する政策変更もわかりにくくならざるを得ない、という面もあるように思います。


さて、日銀の金融政策なんて私たちの生活には直接関係ないだろう、と思われる方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれませんが、実は密接に関わっている部分もたくさんあります。その一つが住宅ローン金利です。


週末の日銀金融政策決定会合の結果を受けて、大手メガバンク3行は早速、週明け7月31日にも固定10年金利の引き上げを発表しました。8月の10年固定の最優遇金利は、三菱UFJ銀行は7月比0.09%高い0.78%に、三井住友銀行は同0.1%高い0.89%、みずほ銀行は0.05%高い1.20%に引き上げています。


住宅ローンの固定金利は10年債利回りなどの「長期金利」の変動に左右されます。そのため、それまで0.5%が上限とされていた10年債利回りの上限が事実上1.0%にまで引き上げられたことで、債券市場では早速、金利は0.6%前後まで上昇。この動きを受けて、前述したメガバンクも10年固定金利を引き上げたというわけです。


昨年12月に日銀がYCCの変動幅を±0.25%から±0.5%に拡大した際にも、銀行の固定金利は上昇しました。その時は10年固定金利で1.5%近く、フラット35では2%近い水準まで上昇した場面があったと記憶しています。


今回もイールドカーブ・コントロールの実質的な修正を受けて、10年債利回りは今後数カ月で0.8%程度まで上昇するのではないか、との指摘があり、10年固定金利もさらに0.2%から0.3%程度、上昇する余地があるかもしれません。


一方で、今現在住宅ローンの7割を占めるといわれている変動金利は、「10年債利回り」ではなく「短期プライムレート」に左右されると言われます。より単純に言えば、長期金利ではなく短期の金利で決まる、ということですね。


この短期プライムレートの基準となるのが日銀の決定する政策金利です。この政策金利については、今回の日銀会合では変更はありませんでした。というよりも、日銀は2016年にマイナス金利を導入して以来、政策金利をずっとマイナス0.1%で維持しています。そのため、短期プライムレートも長期にわたって低水準の状態です。


変動金利についても今回大きな動きはありませんでした。とはいえ、将来にわたっても低金利が続くわけではないかもしれません。日銀のマイナス金利の解除については、まだ数年かかるとみる専門家がいる一方、2024年にもあり得るのではないかと予想する向きもあるようで、見方はわかれています。しかし、10年後も今の状態であるとする見方は少数派です。


日本では今、さまざまなものの価格が上昇しています。企業の値上げや賃上げなども相次いでいます。日銀の目標とする安定的な2%の物価上昇率が達成されれば、マイナス金利を解除し、金融緩和を縮小、そして正常化の道筋を進むことになるという見方は自然な流れと言えるでしょう。その時期がもう今後数年というスパンで見えてきているという意見が、市場参加者のなかでも増えてきつつあるように感じます。低金利が当たり前だった変動金利も、水準を変えるタイミングが近づいてきているのかもしれません。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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