2023年8月1日、アメリカの格付け会社フィッチ・レーティングスは、米国の外貨建て長期債格付けを「AAA」から「AA+」に1段階引き下げました。
2011年には格付け会社S&Pが米国債を1段階引き下げ、およそ半年間株価が低迷し円安ドル高が進みました。
なぜ米国債は格下げされてしまったのでしょうか?今回は一体どのような影響があるのでしょうか?
本記事では米国債の格下げの概要と影響、2011年の格下げの振り返り、格付けの概要や格付け機関について解説していきます。
12年ぶりに米国債が「AAA」から「AA+」に格下げ
アメリカの格付け会社フィッチ・レーティングスは、2023年8月1日に米国の外貨建て長期債格付けを最上位の「AAA」から「AA+」に1段階引き下げました。
米国債の格下げは2011年8月以来12年ぶりとなっています。
ニューヨーク市場では、1日に米国債の格付けが引き下げられたことをきっかけに長期金利が上昇します。その影響で、ハイテク株などで構成されるナスダック総合指数が大幅に下落しました。半導体の主要指数「フィラデルフィア半導体株指数(SOX)」も3.8%下落しています。
8月3日には日本の株式市場も影響を受けます。
出典:TradingView
8月3日の東京株式市場における日経平均は、一時500円以上の下落が生じました。
米国市場はどうなっているのでしょうか?
青:VIX(恐怖指数)黄色:ナスダック オレンジ:S&P500 緑:NYダウ平均株価
出典:TradingView
8月3日の下げ幅はナスダックが-2.17%、 S&P 500は-1.38%、NYダウは-0.98%という結果でした。
このまま続落するのか、復活するのか多くの投資家が気になることでしょう。
2011年の格下げではおよそ半年米国の株価が低迷、ドル安・円高が進行
過去の2011年の米国債格下げではどのような影響があったのでしょうか?
格付け会社S&P(現S&Pグローバル)は2011年8月5日、米国長期債務格付けを「AAA」から「AA+」へ1段階引き下げました。
米国では債務上限問題をめぐって与野党が対立し、8月2日には債務上限を引き上げる法律が成立していました。しかしS&Pは財政健全化計画が不十分だと判断し、格下げを発表しました。
当時の主要指数の推移を見ていきましょう。
青:VIX(恐怖指数) 黄色:ナスダック オレンジ:S&P500 緑:NYダウ平均株価
出典:TradingView
格下げによって、ダウ平均は2011年7月21日の直近高値から10月3日まで16.3%下落しました。
発表前の水準に戻るまでおよそ半年を費やしています。
円安・ドル高も進み、およそ半年後の2012年3月まで影響を及ぼしました。
今回の格下げは織り込み済みか
米国では2023年5月末頃に債務上限問題が話題となり、5月27日には米国連邦政府の債務上限の引き上げについて基本合意に達したという報道が流れました。
2023年5月24日には、格付会社フィッチ・レーティングスは米国債を「AAA」から格下げ方向で見直す可能性がある「ネガティブ・ウオッチ」に指定しています。
結果的にデフォルト(債務不履行)は回避されましたが、5月末で格下げは示唆されていましたので「市場は織り込み済み」という報道もあります。
そもそも格付けとは?フィッチ・レーティングスは世界3大格付け機関の1つ
格付け会社は複数ありますが、スタンダード&プアーズ(S&P)、ムーディーズ(Moody’s)、フィッチ(Fitch)が世界三大格付け機関と言われています。
S&P、フィッチのBB+以下、ムーディーズのBa1以下は投機的・非投資適格とされています。
格付け会社によって基準が異なりますが、一般的な例を見ていきましょう。
出典:金融中央広報委員会「知るぽると 金融機関選びのポイント」
S&P社は米国債を2011年に格下げしフィッチも今回格下げを行いましたが、ムーディーズは「Aaa」を維持しています。
格下げの理由は財政悪化への懸念
格下げの理由としては今後の財政が悪化する要素が指摘されています。
・政府のGDP(国内総生産)に対する財政赤字の比率が上昇する見込み
・利上げによる金利上昇と債務残高の増加が、米国債の利払い負担を増加させると予測される
・利上げにより企業の設備投資縮小・消費が低迷しリセッションが起こる可能性
・高齢化と医療費の増加によって支出が増える
格下げに対してイエレン財務長官は反論
今回の格下げに対して、イエレン財務長官は「格下げはまったく不当なもので、強く反対します」と反論しています。
5月に格下げが示唆されていたこと、ムーディーズが「Aaa」を維持していることから筆者は「格下げの影響は2011年ほどではない」と予測しています。今後の動向に注目していきましょう。