AIとSNSのなかで、スポーツ審判の仕事に更なる投資を

Twitter(サービス名はXに変更。本項ではTwitterと表記)をはじめとしたSNSにおいて人を侮辱したり、名誉を棄損したりすることは厳罰化の対象となりました。その意識はとても浸透したように見えますが、興奮は我を忘れるものでもあります。プロスポーツや甲子園などの学生スポーツ、本来はリスペクトの対象にすべき存在を、我々はあまりにぞんざいに扱っていないでしょうか。


SNSで写真を上げて仕事を辞めろと迫る

最近SNSで目立つのはプロ野球や高校野球において、審判によるストライク・ボール判定に対しコースを再現しながら「今のはストライクだろ」「どこに眼をついているんだ」と非難する投稿があります。また塁審のアウト・セーフの判定も対象になりがちです。また国内サッカーのJリーグでは審判の肖像をアップして「お前のせいで負けた」「いますぐ(審判)資格返せよ」という辛辣な言葉が並びます。


そのほかのスポーツは頻度こそ下がるかもしれませんが、SNSを通じた罵詈雑言はゼロではないでしょう。長らくTwitterを活用していますが、最近目を覆うほどに辛辣な投稿が目立ちます。社会のフラストレーションを反映しているのでしょうか。


そもそもSNSは後詰めです。審判は140kmを超える直球を瞬時に判断します。JリーグはVAR(ビデオアシスタントレフェリー)こそありますが審判による第一次ジャッジのフォローとしての役割です。



筆者も社会人サークルにて長くバドミントンを嗜んでいますが、大前提として審判はリスペクトの対象です。もし大会において試合中に審判の判定にくってかかることがあれば、それがどれだけ的を射た指摘でも退場となります。


基本的にスポーツの現場において、審判は絶対的な存在であるべき。それは選手に対してはもちろん、観客に対しても同じです。SNSに写真を上げて糾弾するなど、まず考えられない行為です。


2023年の甲子園は35℃の灼熱下も

プロスポーツなら選手の生活がかかっています。アマチュアスポーツにおいても甲子園で判定が試合の流れを決め、学生はそれを最後に引退する可能性があります。ただ忘れてはいけないのが、甲子園は35℃前後の灼熱下で試合をしているということです。かつ2時間も3時間も続く試合のなかで、どこまで正確なジャッジ能力を継続することができるでしょうか。


また不思議に思うのは、ここまでSNSで個人を攻撃することが問題視され、不幸な事件も報じられているのに、なぜ今になってタガが緩んでいるのかという点です。ひとつの仮説ですが、審判が所属している団体は簡単には発信者を訴えられないため、牙が向いているのではないでしょうか。野球、サッカーとスポーツに限らず、審判が所属して彼らを守る立場の団体には、確固たる対抗姿勢を求めたいものです。


AIとSNSのなかでスポーツ審判に更なる投資を

先に紹介したサッカーのVARのように、試合を向上させるための技術革新は進んでいます。現代のスポーツにAIや高度技術が恩恵を与える部分です。同時に提案したいのは、生身の人間である審判に対しても、更なる投資を期待できないかという点です。


大別して2つの意味があります。ひとつは審判自身の待遇です。スポーツにもよりますが、選手の半分、若しくは1/3の報酬といった低待遇も珍しくないようです。審判単独では暮らしていけない報酬に対しプロフェッショナルの審判判断と、いわばSNSでの「ターゲット」を求めるのは、あまりに残酷過ぎます(待遇が良くなればSNSで矛先にしてもいいのかという意味ではありません)。


もうひとつは繰り返しになりますが、審判の名誉を守る社会の醸成です。審判だから写真を掲載され個人攻撃されるような社会はそもそも不健全です。審判を管轄する団体やスポーツそのものの管理団体、またはスポーツ庁や文部科学省という行政団体には防波堤となることを願います。



2023年3月に時事通信が報じた記事によると、日本プロ野球機構は選手や監督、コーチ、そして審判に対してSNSによる個人攻撃や名誉棄損があった場合は、断固たる措置を取ると表明しています。具体的な提訴の事例を掲示し、抑止力の醸成に動く段階なのは間違いありません。なぜここまで動きが鈍いのでしょうか。


かねてよりスポーツ好きのなかでは、時にお酒を嗜みながら「あの審判の判定ないでしょ」という会話が交わされました。間違いなく、それも含めてのスポーツ観戦です。ただSNSに写真を載せ、それも灼熱の状況下での判断を問う行動は不特定に拡散するものです。決して同一のものと見做してはなりません。


スポーツの発展は文化の創出として、社会にも大きな影響をもたらします。日本中を元気にする源泉となるスポーツの審判に、更なる投資が拠出されることをあらためて提言します。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

工藤 崇の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております