アルツハイマー型認知症治療薬「レカネマブ」承認へ エーザイの売り上げ1兆円押し上げとの試算

エーザイが米製薬のバイオジェンと共同開発したアルツハイマー型認知症治療薬「レカネマブ」が、厚生労働省の専門部会で8月21日に了承されました。


専門部会で了承されたことで、同薬はアルツハイマー病の進行を緩やかにする効果を証明した国内初の薬として、厚労省に承認される見通しです。


今後焦点になるのが薬価です。報道などによれば、9月以降、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)で議論されるもようですが、一足早く承認された米国での薬価は年2万6500ドル(約390万円)となっており、国内での価格がいくらになるのか注目されます。


この薬価次第ではありますが、エーザイは売上高に相当する売上収益がレカネマブだけで2030年度に世界で1兆円規模になると見込んでいます。2022年度の売上収益が7444億円ですから、1つの薬だけでそれを上回る可能性がある、ということになります。それだけに期待も大きいわけですね。


株価の方もレカネマブにかかわるニュースをきっかけに年初は6000円台で推移していたのが、8月上旬には1万円台にのせるなど、値動きの激しい展開となっています。


エーザイ日足チャート



レカネマブが承認されることがほぼ確実となったことで、最近の株式市場では治療薬そのものだけではなく、例えば、「認知症検査」関連など周辺領域についてもにわかに話題となっています。


その一つが島津製作所<7701.T>です。同社は微量の血液からアルツハイマー病の兆候を診断する試薬を2023年6月30日に発売。この試薬はエーザイと共同で開発し、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドベータの脳内蓄積量を調べるもの。


レカネマブは早期段階の病状進行を遅らせる効果が期待できるとされているため、認知症の上昇ができるだけ、軽いうちから治療を開始するのが効果的です。早期発見のためには、定期的な検査が重要ですから、レカネマブだけではなく、検査のための試薬の需要も今後増加するだろうという推測はうなづける部分があります。



島津製作所日足チャート


同様の理由から、オキサイド<6521.T>も注目されています。同社は単結晶、レーザーなど光製品を取り扱っている企業。半導体やがん診断PET装置向けなどが主力ですが、そのなかでもアルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドベータの分布や量を精密に検査するための頭部専用PETにも注力しており、レカネマブの承認で検査需要が増加するとの期待が株価材料になっているもようです。


オキサイド日足チャート



厚労省の「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」推計による、65歳以上の認知症患者数は2020年に約602万人、団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となる2025年には約675万人(有病率18.5%)と5.4人に1人程度が認知症になると予測されています。


レカネマブの使用が可能な認知症の人は症状が軽度の人に限られますが、かりにすべての認知症患者がレカネマブを使用することになれば、費用はは莫大なものとなり現状の保険制度を維持することはできなくなるでしょう。そうした面からレカネマブの薬価は米国よりかなり抑え気味の水準になるとの見方がありますが、抑えすぎても製薬会社が利益を得られなくなり、画期的な新薬を開発する動きは限られてしまうことになります。


株価だけでなく、今後の日本の認知症治療、そして製薬企業の動向も左右することになりそうなレカネマブの薬価について、今後も注目したいと思います。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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