日本テレビホールディングスは9月21日、傘下の日本テレビ放送網がスタジオジブリを子会社化すると発表しました。
議決権ベースで42.3%の株式を取得。取得価額は現時点で非開示となっていますが、開示可能となった時点で公表するとしています。
株式の異動については細かい点は開示されていませんが、まとまった株を保有している人ということでは、おそらく宮崎駿監督や鈴木敏夫プロデューサーの持ち分から取得したのではないかと推測します。
記者会見では、突然の発表の裏には、スタジオジブリの後継者問題などがあったと説明がなされました。宮崎監督は82歳、鈴木プロデューサーは75歳ということで、現状での組織は早晩維持できなくなるというのは、自明の理であったことでしょう。
ともあれ、あのスタジオジブリが日テレの子会社になるということですから、株式市場でも非常に驚きをもって受け止められました。発表翌日の22日には、一時ストップ高となる1675.0円まで上昇。この発表で時価総額にして約800億円押し上げられたことになります。これはスタジオジブリの価値(日テレの持ち分は42.3%ですが)が、それだけ大きなものだと株式市場で認められた証と言えるでしょう。
では、実際にはスタジオジブリの企業価値はいったいいくらになるのでしょうか。鈴木プロデューサーの著書によれば、海外企業から数千億単位で株式を買い取る提案があったとも言われているようですが、それは今回は横において置いて、別の観点で価値を算定してみたいと思います。
ジブリは非上場企業であるため、市場で株式が売買され、その値段によって時価総額が決まるというわけにはいきません。ただ、業績については一部ですが把握することが可能です。
上場企業のように四半期ごとに決算短信を発表しているわけではありませんが、スタジオジブリが毎期開示している決算公告によれば、直近の23.3期の純利益は34.3億円でした。ちなみに決算公告で開示されるのは貸借対照表の要旨で、損益計算書にあるような売上高や営業利益といった項目はありません。わかるのは純利益や利益剰余金などに限られます。
その前の22.3期は同20.0億円。21.3期は12.5億円。20.3期は6.8億円。19.3期は9.3億円となっています。この間、スタジオジブリとしての製作作品はありますが、宮崎駿監督作品としては最新作の「君たちはどう生きるか」の1作品前が、2013年の「風立ちぬ」まで遡りますから、この間には公開されていないということになります。
今回の日本テレビのスタジオジブリ子会社化に際し、近い将来、宮崎駿監督や鈴木プロデューサーが、スタジオジブリからいなくなる、作品作りに関われなくなるのがわかっているのに、買収する意味はあるのか?という指摘を多く見かけましたが、答えはここにあるように思います。
同社では宮崎作品の公開がない年でも権利収入などにより、これだけの利益を出すことができる会社であるのです。逆説的には公開作がないときは製作費がかからないため、黒字になりやすいという面もあるかもしれません。
利益剰余金は直近の23.3期には253.8億円にまで積み上がっており、今後も安定して増加が見込めるでしょう。