外国に送る多額のお金を日本国民のために使うには、首相は誰を説得しなければならないか

本メディアにて2023年6月に筆者が執筆した「なぜこれだけ生活が厳しいのに外国にお金を送るのか、外貨準備高とニュースの背景」が公開後3カ月を経ても多くの方に読まれています。日本国内はコロナの影響や物価高などにより、苦しい生活をしている人が数多くいます。


その一方で日本政府は、外国に数億円規模の資金を提供し、それがメディアで報じられています。ニュースとなるたびにTwitterなどのSNSでは「そんなお金があるなら生活補填に提供すればいいのに」という意見が目立ちます。


外貨準備高の使いみちを変えるのは「原則」できない

前記事で説明したように、外貨準備高を国家財政で活用できる政府の歳入とすることは「原則」できません。この原則という言葉はとても厄介で、100%に近いほど可能性がほぼ無いという見方ができれば、一方で「時には例外もある」と解釈することもできます。


円建てで計算した外貨準備高は、現在(2023年9月執筆時)のように円安基調が進んだ場合、含み益を生じます。野党の国民民主党は2022年に、この含み益を活用し、国民1人あたり10万円のインフレ手当に充当する法案を参議院に提出しました。


この意思決定をする場合に政府、更にわかりやすい構図にするために岸田首相としましょう。岸田さんは、国会における決議を経て「外貨準備高を生活資金にしよう」と決めることができます。自民党を含めた政権与党の同意があり、野党の納得や妥協があり、日本国としての意思決定となります。ただ、どうも外貨準備高における日本政府の腰の重さを見ていると、岸田さんが許可を貰えばいいのは「国会だけ」ではないようです。



外貨準備高に最も影響を持つのは財務省と日本銀行

外貨準備高の特性上、最も影響を持つのは財務省と日本銀行です。両者とも財政の番人として、岸田さんが生活資金として出して!と言ったから無条件で従うわけにはいきません。外貨準備高として蓄え、国際的な通貨市場において活用するお金を国内の経済対策に投入すると、財務省や日本銀行はいざという時の武器を自ら手放すことになります。


財務省や日本銀行も、対外国における主語は「日本」であり、日本国民の生活を守るために動いています。時に岸田さんの抵抗勢力となるかもしれませんが、ニュースを受け取る人間としてそれは忘れずにいたいものです。


岸田さんが説得しなければならない最大の壁とは

では仮に、財務省と日本銀行がOKといえば、外貨準備高を経済対策に回すことができるのでしょうか。残念ながら、ここが最大の壁とされています。それは為替介入です。


外貨準備高を売却するには為替介入しかない

外貨準備高を経済対策に回すには、外貨準備高を売却するしか方法はありません。2022年に日本銀行は何度か為替介入をしましたが、これは円安の急伸防止を根拠とするもので、他国から理解を得ているものです。


仮に日本が国内生活を優先して、為替への刺激著しい為替介入を強行しようものなら、世界経済から大きなペナルティを受けます。これが日本政府が外貨準備高を生活資金に充当できない、最大の理由といえるでしょう。


記事タイトルの答えがここでわかります。外国に送る多額のお金を使うには、日本国の首相は世界経済のステークホルダーの理解と承認を得なければならないのです。ではなぜ、政治家はこのことを説明しないのでしょうか。



ニュースを見る時は「なぜできないのか」を考えたい

この理由は1つではないと筆者は考えています。話は難しすぎる(前提として準備高や為替の知識が必要)ために説明に向かないものもあれば、政治家がそこまでの説明力を持っていない可能性もあります。また、完璧な説明を終えて「だからお金をだせないことがわかりましたか?」と問うたところで、誰も納得させないし、誰も幸せにしないという性格もあります。


そして、これは言葉の選択が難しいのですが、我々は耳馴染みの良い「準備高を生活資金に回せないなんて、国民のことを考えてなあい!」といった主張を手放しで支持していないかということです。筆者は特段、支持政党はありません。


ただ、物事を自分たちの手で進めるのと、まわりで粗探しをするのは違います。もっとも厄介なのは、その政策が打てないことを知りながら、大衆の受けが良い糾弾側に回ること。それを見通す目は、ショートセンテンスが持て囃されるインターネットやSNSの世の中だからこそ、守られていけたらいいと思わずにはいられません。


何はともあれ2023年も最後の4カ月に差し掛かりました。もうちょっと物価高騰が落ち着いて、心を落ち着かせて本年の締めくくりを迎えたいものですね。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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