上方修正の鍵を握るのは「値上げ」 雪印メグミルクの決算から読み解く

雪印メグミルク<2270.T>が10月24日、2024年3月期通期の連結業績予想を修正し、営業利益、経常利益、純利益をそれぞれ上方修正しました。


売上高は従来予想の6160億円を据え置いたものの、営業利益は140億円から182億円に、経常利益は150億円から195億円に、純利益は95億円から122億円に引き上げています。


これは2022年から実施している価格改定が着実に浸透したことによる販売単価差のプラス効果に加え、エネルギーをはじめとするコストの上昇幅が想定したレベルよりも下回ったことなどが要因だと会社側では説明しています。


同社のHPで開示された情報によると、2022年は商品は異なるものの2月、3月、7月、9月にそれぞれ値上げを実施。そして2023年にも、1月、2月、5月、8月、10月に値上げを実施しています。対象となっているのは家庭用の牛乳や、バター、チーズ、ヨーグルトなどをはじめ、育児用粉ミルク、また業務用の各製品も値上げされています。


こうした値上げを要因として、同社の業績、特に収益性は大幅に改善。24.3期の会社計画から算出した今期の営業利益率は2.95%(23.3期は2.23%)と前期から0.72%ポイントも向上しました。


一方で、売上高については期初予想を据え置いています。これは値上げの影響による販売数量の減少を織り込んでのものだと思われます。


消費者の目線で見た場合、企業が値上げを行って、利益が増えたといわれても、あまりいい気分にはなりにくいですよね。値上げがなければ、もっと安く買えたのにと思うのも当然です。とはいえ、それでも同社の営業利益率はようやく3%届こうか、といったところですから、できる限り値上げ抑えているともいえるでしょう。


こうした収益性の改善を受けて、株価は堅調に推移しています。とはいえ、直近の値動きからはすでに上昇修正が出ることは予想されていた面もあるようです。


というのも、8月に発表した2024年3月期第1四半期の時点で営業利益は52.6億円(前年同期比32.1%増)と非常に好調な水準であり、同時点での通期営業利益予想140億円に対して37.6%の進捗となっていました。


単純に3カ月ごとの業績を表したのが四半期決算ですから、季節ごとに偏りが少ない業種の場合、1四半期で通期の25%に達していれば、おおよそ予定通りの進捗ということになります。雪印メグミルクの場合は、第1四半期の時点で1年の通期計画の4割近い水準となっていたのですから、上方修正が出るであろうということは先んじて予想され、株も買われていたわけです。


雪印メグミルクの日足チャート


チャートを見ても、上方修正を発表した直近よりも、第1四半期の業績を発表した8月の時が上昇幅が大きいことがわかります。こうした値動きを株ではよく、「織り込み済み」と言ったりします。いろんなケース出てくる用語なので、覚えておいて損はありません。


雪印メグミルクのこれからの業績についてですが、同社では、前述したように直近の10月もバターなど一部商品を価格改定を実施しており、これで値上げの流れが完全にとまったとは言えない状況です。原材料の価格やや働いている社員をはじめとした人件費なども上昇しており、値上げしなければ利益を維持することは難しい。かといって、このままどんどん値上げを続けていけば、消費者が商品を買い控えるケースも出てくるでしょう。両者のバランスをうまくとる、難しい経営のかじ取りが迫られる局面となりそうです。


値上げと聞くと、どうしても反射的に拒否感を持ってしまうことがあると思いますが、商品の価格は、企業業績と密接に結びついたものでもあります。普段のニュースなどで見かけたときに、株の売買の参考にしてみてはいかがでしょうか。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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