「メタバース(インターネット上の3次元の仮想空間)」という言葉は、2021年10月に当時のフェイスブックが社名をメタ・プラットフォームズ(META)に変更したのをきっかけに広がったようです。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の先頭ランナーだったフェイスブックが、次世代の交流の場としてメタバースを選んだことで注目度が高まりました。
それから約2年がたち、一時期に比べれば熱気が冷めてきた印象です。少なくともメタ・プラットフォームズが提案していたかたちで、アバター(仮想世界の中の自分の分身)が仮想空間の中でほかのアバターと交流するのが一般的になったかといえば、そうでもありません。
もちろんメタ・プラットフォームズの提示したかたちだけがメタバースというわけではありません。メタバースについて話すときにまず行き当たるのが、そもそもメタバースとはなんぞやという問題です。
ネットで調べても定義はさまざまですが、「3次元の世界」「没入体験」「参加者との交流」「アバターのアイデンティティの確立」「コンテンツの多様性」「経済性」「大規模なユーザーの同時接続」「コンテンツの自由な制作」などを挙げる人が多いようです。
こうした定義であればメタバースはすでに広がっていると言えそうです。オンラインゲームの「フォートナイト」がしばしば例に挙げられています。
「フォートナイト」は世界中の小中高生に人気のあるシューティングゲームです。自身のアバターを操作し、チャットなどを通じて友だちとコミュニケーションを取りながら協力して遊びます。
「3次元の世界」「没入体験」「参加者との交流」「アバターのアイデンティティの確立」などの定義はクリアしていますし、アバターのコスチュームや武器を購入したり、友だちにプレゼントできたりする点で「経済性」も兼ね備えています。
「フォートナイト」を開発・運営するのは、中国のIT大手のテンセントが株式の約40%を持つ米エピック・ゲームズです。エピック・ゲームズは有望なユニコーン(評価額が10億ドルを超える未上場の新興企業)として知られており、調査会社の米CBインサイツが発表した2023年7月時点のユニコーンのランキングでは、評価額315億ドルで世界7位に入っています。
オンラインゲーム以外でも、ビジネスなどの領域で仮想空間の活用を目指す動きは続いており、メタバースは大きなポテンシャルを持つと見込まれています。今回はまずメタ・プラットフォームズの取り組みをご紹介します。
メタ・プラットフォームズ、ソフトとハードの提供に主眼
メタ・プラットフォームズのメタバース戦略は、インターネット上の仮想空間プラットフォームと没入体験を得るために必要なハードウエアを組み合わせることに主眼を置いているようです。ハードウエア事業には2014年に仮想現実(VR)用のゴーグルを開発・生産するオキュラスVRを買収し、参入しています。「オキュラス」のブランドはその後、「メタクエスト」に変更しています。
メタクエストはVRゴーグル市場で圧倒的な市場シェアを誇っていますが、低下傾向にあります。調査会社のIDCによると、2022年1-3月の世界シェアは実に88.7%に達していました。ほぼ独占していたといえますが、1年後の2023年1-3月には47.8%にまで低下しています。ソニーグループが市場シェアを35.9%にまで高め、追い上げているのです。
メタ・プラットフォームズはメタバース事業で、「ホライゾンワールド」というプラットフォームを展開しています。仮想空間でアバターを通じて友だちなどと交流できるほか、イベントに参加したり、ゲームを楽しんだりすることが可能です。
2021年12月に米国とカナダで一般提供を始め、その後に対象国・地域を広げています。ただ、利用者数は伸び悩んでいます。メタ・プラットフォームズは2022年末時点の月間アクティブユーザー数(MAU)の目標を50万人に設定しましたが、2022年10月時点で20万人を下回っており、目標数を28万人に下方修正したと伝わっています。
現在販売されているVRゴーグル「メタクエスト2」の価格が最低でも5万円程度と比較的高価です。装着が不可欠であれば気軽に「ホライゾンワールド」を訪れたいと考えるライト層の呼び込みは難しいのかもしれません。
実際、メタバース事業の売上高は、社名を変更した2021年10-12月期の8億7700万ドルをピークに減少傾向をたどっています。2022年10-12月期には7億2700万ドルと盛り返しましたが、2023年1-3月期に3億3900万ドル、4-6月期に2億7600万ドル、7-9月期に2億1000万ドルとピーク時の3分の1以下に縮小しています。
メタ・プラットフォームズは2023年7-9月期の決算報告書の中で、メタバース事業が当初の想定通りに発展していない点を認め、2024年にはこの事業の損失が増えると予想しています。目先ではメタバース事業の戦略と投資が成果につながらず、財務面でも悪影響が及ぶとの見方さえ示しています。また、メタバースが次の10年に実用化されると想定した上で、メタバースを支援できるかどうかはほかの事業の収益に左右されるとの考えです。