中国、12カ月連続で金保有高を積み増し
中国が11月7日発表した10月外貨準備高は、前月比138.5億ドル減の3兆1,012億ドルでした。一方で、金保有高は前月比23トン増の2,215トンに膨らみました。10月7日にイスラエルとハマスの衝突が発生し、安全資産であるゴールドへの需要が高まり、米ドル建て金先物価格が2,000ドルを突破するなど高騰したものの、中国の金保有高は12カ月連続で増加。累計で266トンの積み増しを記録しました。
中国と言えば、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)の値決めオークションから撤退しているとの話題が、ゴールド市場関係者の間で取り沙汰されています。
ゴールドと言えば、ロンドン市場とニューヨーク市場が代表的です。ロンドン市場では、2015年3月、1919年から100年以上続いたロンドン・フィキシングに代わって、LBMA金価格が始動。LBMAが金価格の値決めを1日に2回、午前と午後に実施しています。
ロンドン・フィキシングが撤廃したのは、不正事件が発生したためです。欧米州の貴金属取引を扱う部署を持つブリオン・バンクの5行(英バークレイズ、英HSBC、仏ソシエテ・ジェネラル、加スコシアバンク、ドイツ銀行)が、電話会議で価格を決定するなか記録が残らず、長年、その信頼性が疑問視されていました。そこへ、2014年5月に英バークレイズのトレーダーによる値決め不正操作が発覚し、ロンドン・フィキシングが終焉を迎えます。
LBMAは、英国の金融規制監督機関である英金融行動監視機構(FCA)の監督下に置かれました。LBMAでの値決めでは、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を算出するインターコンチネンタル取引所傘下のICEベンチマーク・アドミニストレーション(IBA)の電子プラットフォームを用い、前述した欧米州の大手5行以外がオークションに参加できるようになったのです。
中国の銀行にも門戸が開かれ、15年6月には中国銀行、同年10月には中国建設銀行、16年4月には中国工商銀行、さらに交通銀行などが迎え入れられました。
しかし、足元で異変が生じています。IBAのウェブサイトで参加者をみると、11月9日時点で中国銀行の名前しかありません。しかも、アスタリスク付きで「中国銀行の要請により、一時的に参加を停止中」と明記しています。
つまり、2022年時点にて生産量で1位(375トン)、輸入額で2位(767億ドル)、消費量で1位(824.9トン)の中国の銀行が、LBMAのオークションを通じた値決めから撤退したことになります。
画像:値決めのオークションに参加する金融機関、中国銀行の1行のみも「一時的に参加を停止中」
(出所:IBA)
LBMAの値決め、中国の需給を反映せず?
これが何を意味するのか、現時点では不明です。LBMAに中国の銀行が参加し始めた16年4月には、上海黄金取引所が値決め取引を開始済み。ロンドン、NYに次ぐ市場へ成長させるべく中国が立ち上げたと考えられますが、中国当局が米国債売却を通じたドル離れを進めるなかで、上海黄金取引所に集中させるべく、同国の銀行に撤退を促しているのかもしれません。
中国がLBMAのオークションに参加し始めた15年、IBAは「ベンチマークの算出に使用されるデータの透明性と堅牢性が増し、市場価格をより的確に表すことができる」との考えを寄せていました。フィナンシャル・タイムズ紙も、中国の需給を反映するようになると報じていたものです。
足元、中国がLBMAから撤退するなか、透明性や堅牢性の問題だけでなく、同国の需給を反映しなくなっている可能性にも注意すべきでしょう。LBMAでの値決めは、鉱山会社などが長期契約の価格に使用される事情もあり、米ドル建て金先物への影響もゼロではなさそうです。