【米国株インサイト】農業セクター(後編): 穀物メジャーや種子開発大手が存在感

米国は世界有数の農業大国で、すそ野の広い産業構造を持ちます。前編では農業機械で世界最大手のディア・アンド・カンパニー(DE)と植物油脂に強みを持つ穀物メジャーのアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)をご紹介しました。後編では穀物メジャーの一角を占めるブンゲ・グローバル(BG)、リン酸肥料の世界的大手のモザイク(MOS)、そして農産物の種子の開発を手掛けるコルテバ(CTVA)を取り上げます。


ブンゲ・グローバル、創業200年超の穀物メジャー

ブンゲも穀物メジャーの一角を占めます。アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドの「A」、ブンゲの「B」、米カーギルの「C」をとって「穀物メジャーABC」と呼ばれることもあるようです。


会社の歴史は1818年にオランダのアムステルダムで創業した貿易会社にまで遡ることができるそうで、200年を超えます。米国法人を設立したのは1923年で、今年はちょうど100周年に当たります。主力事業は、アグリビジネス部門、精製油・特殊油部門、粉砕加工部門、砂糖・バイオエネルギー部門に分かれています。


このうちアグリビジネス部門が2023年7-9月期の売上高の約71%、EBIT(利払い・税引き前利益)の65%を占める中核事業です。大豆、菜種、ひまわりの種などの油糧種子に加え、トウモロコシや小麦といった穀物の調達、貯蔵、輸送、加工、販売を手掛けます。この事業では世界各地に合わせて105カ所の貯蔵施設や37の油糧種子の加工施設を展開しています(2022年末時点)。



精製油・特殊油部門は2023年7-9月期の売上高の約25%、EBITの32%を占めています。油糧種子を原料に加工を手掛け、クッキングオイル、ショートニング、マーガリン、マヨネーズなどの最終製品も生産しています。アグリビジネス部門で生産した植物油やミールなどを原料とするほか、外部からも調達します。


粉砕加工部門は2023年7-9月期の売上高の約3%、EBITの1%を占めています。トウモロコシの粉砕加工や製粉が主力で、やはりアグリビジネス部門で生産したトウモロコシや小麦の加工品も利用しています。


砂糖・バイオエネルギー部門は2023年7-9月期の売上高の約0.4%です。英石油大手のBPとブラジルで手掛ける合弁会社BPブンゲ・バイオエネルジアが主な収益源です。BPブンゲ・バイオエネルジアはサトウキビから砂糖とバイオエタノールを生産しています。


モザイク、リン酸肥料の世界的大手

モザイクは、穀物メジャーの米カーギルの肥料部門と肥料大手の米IMCグローバルが2004年に統合し、誕生しました。リン酸肥料や塩化カリウム(カリ)肥料、そのほかの化学肥料、飼料用の原材料などを生産しています。


主要原料の鉱山を保有する垂直統合型の事業体制が強みです。実際、小麦やトウモロコシなどの生育に欠かせない肥料の主要成分である窒素、リン酸、カリの主要輸出国であるロシアは、ウクライナ侵攻後に「非友好国」への輸出を制限しましたが、主要原料の権益を抑えるモザイクには追い風で、一時的に株価が急騰しました。


リン酸肥料部門は2023年7-9月期の売上高の約28%、粗利益の18%を占めています。ペルーにリン鉱山の権益を持つほか、米国ではフロリダ州に鉱山と工場、ルイジアナ州に工場を保有しています。肥料成分用の濃縮リン酸塩では北米地域の約7割を生産しています。また、サウジアラビアでは合弁を通じてリン酸製品を生産します。



塩化カリウム(カリ)肥料事業は2023年7-9月期の売上高の約20%、粗利益の60%を占める主力部門です。カナダと米国に鉱山と生産拠点を持ち、北米の年間生産量の約35%を製造します。生産品は肥料成分のほか、飼料成分としても利用されています。


モザイク肥料部門は2023年7-9月期の売上高の約49%、粗利益の21%を占めます。ブラジルとパラグアイにリン鉱山やカリ鉱山、化学プラント、物流機能などを保有しています。ブラジルは大豆の生産量で米国を抜いて世界一、トウモロコシでは米中に次ぐ3位という農業大国です。


コルテバ、トウモロコシ種子の品種改良に強み

化学大手デュポン(DD)の前身であるダウデュポンの農業関連部門が2019年に独立し、コルテバが誕生しました。農産物の種子の開発・販売と農作物の保護が事業の柱です。


部門別では種子事業の季節要因が大きいため、2022年12月期でみてみます。種子部門は売上高の約51%、EBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)の50%を占めます。遺伝子技術を活用し、病害虫や悪天候に強く、栄養価の高い農作物の種子を開発しています。



北米ではトウモロコシと大豆の種子で首位に立っており、欧州ではトウモロコシとひまわりに強みを持ちます。トウモロコシの種子では世界的に強く、ブラジル、アルゼンチン、インド、南アフリカ共和国などでも最大手です。


2022年末時点で国内外の65カ所に種子事業の拠点を置き、内訳は北米が40カ所、中南米が14カ所、欧州・中東・アフリカ(EMEA)が8カ所、アジアが3カ所です。



農作物保護部門は2022年12月期の売上高の約49%、EBITDAの50%を占めています。雑草から農作物を守るため、害虫駆除剤や除草剤などの開発と販売を手掛けています。生産拠点は20カ所で、内訳は北米が6カ所、中南米が4カ所、EMEAが6カ所、アジアが4カ所です。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

島野 敬之の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております