人流回復やインバウンドで絶好調?実は倒産件数が過去最多だった「飲食業」

東京商工リサーチが公表した2023年「飲食業の倒産動向」調査によると、同年の飲食業の倒産件数(負債1000万円以上)は、893件(前年比71.0%増)に達し、コロナ禍の需要激変で倒産が急増した2020年の842件を抜いて、過去最多を更新しました。


日頃から株式市場や経済ニュースをチェックされている方には、この調査結果を聞いて意外に思われる方もいらっしゃるかもしれません。飲食業界は足もと、コロナ禍からの回復とインバウンド需要の増加などの追い風により、業績好調で、株価も堅調に推移している企業が多いとの印象があるのではないでしょうか。


実際、サイゼリヤ、マクドナルド、吉野家ホールディングスといったファーストフード系や、力の源ホールディングス、ギフトホールディングスなどのラーメン系、そのほか、焼肉、お寿司といったさまざまな業態で、前年より業績が回復している店舗を多く見つけることができます。


にもかかわらず、倒産件数がコロナ時を上回り、過去最高を更新したというのはなぜなのでしょうか。一つはコロナ時にあった支援策の終了が挙げられます。それまで過去最高だったのは2020年の842件で、その次は東日本大震災のあった2011年の800件でした。景気が冷え込んだ時期に倒産件数が増える傾向にあることがわかりますが、それに対し、2021年(同648件)、2022年(同522件)と倒産件数が大幅に抑制されたのは、手厚い支援策があればこそでした。


2023年は5月に新型コロナ感染症が5類に移行し、コロナ支援も縮小や終了されていくなかで、それでも客足が回復しない店舗では、資金繰りが苦しくなっており、「新型コロナ関連」とされる倒産は548件(同71.7%増)と大幅に増加。アフターコロナにおいても飲食業は厳しい環境に置かれていることがわかります。。


2つ目の理由は人手不足です。コロナ時には時短営業などの要請に伴い、飲食店舗側もアルバイトやパートなど従業員を削減して対応していました。コロナ禍が落ち着いても離職した従業員は戻らず、深刻な人手不足に見舞われています。


また、その間にインフレが進み、人件費は上昇傾向にあります。人手を集めるためには高い時給を提示せざるを得ず、コスト増につながっているようです。東京商工リサーチに調査によると、「人手不足」関連倒産は、集計を開始した2013年以降で最多の51件(前年28件)となったとしています。


3つ目の理由は「物価高」による影響です。同要因による倒産件数は59件(同9件)と前年の6倍超に急増。食材をはじめとする原材料費や光熱費の高騰など、さまざまなコストアップ要因が利益を圧迫。もちろん価格転嫁を行うわけですが、それにより客足が遠のき、倒産につながるケースもあるようです。


また、業態別での倒産件数をみると、違った景色が浮かび上がってきます。最も倒産が多かった業種は日本料理店や中華料理店、ラーメン店、焼肉店を含む「専門料理店」で、213件(前年比80.5%増)でした。これは元の店舗数が多いことも影響していると思われます。一方、前年からの増加率が最大だったのが「持ち帰り飲食サービス業」で、同175.0%増(20→55件)となりました。次いで、「宅配飲食サービス業」が同97.0%増(34→67件)とこちらも大幅に倒産件数が増加しています。


これら「持ち帰り」や「宅配」はコロナ禍で急速に需要が拡大しましたが、それに伴って新規参入による競争が激化。そこに5類移行による人流の回復により持ち帰りや宅配需要が減少したことが追い打ちをかけたかたちとなったようです。同様の傾向は2023年だけでなく2024年以降も続くでしょう。


好調に見える外食産業のなかでも、実際には選別と淘汰が激しくなっています。そのなかで勝ち組となる企業を選ぶ目を養っていきたいですね。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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