新しいNISA(少額投資非課税制度)をきっかけに、投資をしたことのない人が、投資信託などを始めています。歓迎すべきことなのですが、心配な方も見受けられます。
なぜなら、著名なブロガーやユーチューバー、運用の専門家などが薦める投信を、内容がわからないまま積み立てようとしている人が多いからです。これまで、「■■投信の●●ファンドを、▲▲証券で積立投資するといいんですよね?」と何度聞いたことか。巷では、「これさえ買っておけばNISAの勝ち組になれる」などと過激なトークも目につきます。
NISAで勝つ? いったい何の勝負なのよ
NISAは制度のことですし、勝ちも負けもありません。そもそも資産運用に勝負などあるのでしょうか。敢えて言うならば、「あなたに合った資産管理ができれば勝ち」といったところでしょうか。
運用の良しあしは、利益の大きさや手数料の低さだけではありません。保有中の心配が少ない(安全性)とか、使いたい時に換金できる(流動性)といった他の基準と併せ、目的に適した管理・運用が大切です。
投資信託の主な投資対象は、大きく分けると「国内株式」「外国株式」「国内債券」「外国債券」です。国内債券のみで運用される投資信託は、NISAの対象外です。特徴の異なるこれらを組み合わせると、基準価額の変動リスクを抑えられます。株式に債券を混ぜると、値動きがマイルドになるのです。
しかし人気が高い「全世界株式」と銘打った投信は、その名の通り、運用資産のほぼすべてが株式運用です。債券は組み入れられていません。直近10年間ほどは世界的な株高で、特に先進国の株式に絞った運用は、高い利益が得られました。むしろリスクが低いとされる債券の運用は、マイナスが生じているほどです。
この状況を踏まえ、今までは株式運用が圧倒的な利益を上げていたのは事実です。ただし今後も同じ状況が続くとは限りません。
リスクが嫌いなのに、なぜ流行りの投信を?
「■■投信の●●ファンドを▲▲証券で積立投資」説を鵜呑みにして積立投資をした人に、●●ファンドの特徴をお伝えすると、驚かれることが珍しくありません。「えっ? そういう運用だったのですか! 知りませんでした」とおっしゃるのです。
さらに、『じゃあ「■■投信の●●ファンド」はダメなのですか?』という展開になることもあります。いいえ、それが好きな投資家もいるし、向いている人もいます。「リスクがある=ダメ」という発想からも脱して欲しいな、とも思います。
リスクがダメなのではありません。筆者自身は、リスクを負う運用が大好きです。自分の環境や経験、楽観的な性格を踏まえて、比較的高いリスクを許容でき、投資先の未来に資金を投じるのが好きだからです。重要なのは、投資家自身が取れるリスクに合った金融商品を保有し、取れるリスクに見合う運用をしているかどうかです。
「勉強してから投資」ではなく「投資をしながら学ぶ」
金融広報中央委員会(事務局:日本銀行)が行なった「家計の金融行動に関する世論調査 2023年」では、「金融資産をより安全にするためにとった行動」について、約3分の2の人が「何もしていない」と回答しています【グラフ】。
この設問では、ペイオフ対策に関する選択肢が並ぶ中、「金融商品の安全性に関する情報を収集した」もあります。これを選択した人は、全体の14.4%でした。
せめて、資料には目を通し、ある程度の理解はしましょうよ。投信などの資料は難しいというご意見は、重々承知しています。だからこそ、ほったらかしはNG。前週の記事「長期運用の参考にしたい、GPIFの運用」では、最後に「資産と同時に経験も積み立てる」という提案をしました。一生つき合うお金のことです。初めの3年ぐらいは、学びの時期に充ててみませんか。
例えば、積立投資にバランスファンドを選び、ときどき運用状況を確認しながら持ち続けると、その経験が良い勉強になります。
バランスファンドには、「国内株式」「外国株式」「国内債券」「外国債券」の4つに配分するものや、さらに外国を2種類に分け、「国内株式」「先進国株式」「新興国株式」「国内債券」「先進国債券」「新興国債券」の6つに配分するものがあります。また、これらに不動産投資信託(REIT)を加え、「国内REIT」「海外REIT」を含めた8つの資産に配分するバランスファンドもあります。
資産配分が均等なバランスファンドは、各資産が値動きにどのような影響を与えたのかがわかりやすいです。定期的に月次レポートや運用報告書を見てみましょう。これらの資料は、直近の運用の様子をわかりやすく解説しています。月次レポートだからと言って、頑張って毎月読もうとしなくても大丈夫。無理のないペースで目を通すうちに、見るべきポイントがわかってきます。
また、日ごろから資料を見る習慣をつけていれば、経済環境が大きく変化した時、資料を見てどう読み取ったら良いのか、さらに自分はどうしたら良いのかを判断できるようになっていると思います。
資料を読み慣れれば、「もう少しリスクがあっても大丈夫そうだな」「海外の株式はやっぱり魅力的だな」とか、「値動きがするのはやっぱり怖い」などと感じるようになります。ご自身の考えがだんだん固まってくるのです。解説を読んでいるうちに、自分なりの相場観が養われて投資が面白くなるかもしれませんよ。
健康維持のために食生活に配慮したり、軽い運動や休息をしたりするのと同じように、金融資産についても、できることから気をつけてみませんか。
【出典】「家計の金融行動に関する世論調査」〔二人以上世帯〕(金融広報中央委員会)