先日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2023年10~12月期(第3四半期)の運用状況(速報)を公表しました。本来、年金運用は長期的な視点で行なうものなので、3カ月ごとの状況に一喜一憂してはいけません。ですが、公的年金の運用を任せている国民としては、その時々において、運用状況を知っていることが大切です。
その観点から、GPIFは3カ月ごとに運用状況の速報をまとめ、公表しています。
2023年10~12月期の運用はプラス2.62%
GPIFの年金積立金は、2023年12月末時点で224兆7,025億円です。年金積立金は、相当大きな規模のファンドで、「市場のクジラ」と呼ばれることもあります。国内販売の公募投資信託の純資産総額が196兆9,070億円ですから、それを1割以上上回るほどの巨大な資金です。
年金積立金とは、現役世代が納めた公的年金保険料のうち、年金の支払いなどに充てられなかった部分を積み立てている資金。この年金積立金は、GPIFによって運用されています。
運用の対象は国内外の株式や債券など。長期の財政計画に基づき、将来世代の年金給付を補うために使われます。日本の年金制度では、現役世代の納める保険料が、その時々の年金給付に充てられます。今の現役世代は、下の世代が将来納める保険料から受け取るしくみになっています。
年金積立金の役目は、保険料と国庫負担(税金投入分)を合わせ、年金給付額に足りない場合の補てんです。将来の人口構成比を考えると、将来の現役世代が納める保険料の負担が重くなると予測されるため、GPIFでは、年金積立金を運用して備えているのです。
この年金積立金の2023年10~12月期の収益額は、プラス5兆7287億円、期間収益率は2.62%(運用手数料等控除前の時間加重収益率)となりました。2001年度に市場運用を始めてからの累積収益額は、132兆4,113億円。収益率は、年率換算で3.99%です。
現在、巨大なファンドの運用は「4資産バランス」
年金積立金の運用は、5年ごとの中期目標が定められています。年金給付は、長期的には賃金に連動するようになっています。5年に1度、財政検証が行われ、賃金上昇率との差や資産配分が見直されます。
現在の中期目標(2020年度~2024年度)では、「年金積立金の長期的な運用目標=賃金上昇率+1.7%」となっています。現役世代が納める保険料は賃金がベースになるため、補てんする部分の年金積立金も、賃金上昇を少し上回るよう設定されています。
これに基づき、現在の資産配分の方針では、各資産を4分の1ずつ均等に保有しています。カッコ内は、運用によって資産額が上下した場合の許容範囲です。
●国内債券 25%(±7%)
●外国債券 25%(±6%)
●国内株式 25%(±8%)
●外国株式 25%(±7%)
これは、個人投資家である皆さんにとっても、ご自身の資産形成を考える上でも参考になるのではないでしょうか。年金積立金と同じペースの運用目標を掲げ、5年ごとに見直される年金積立金の中期目標と同じ資産配分(アセット・アロケーション)にしてみるのは一つの方法です。
3ヵ月ごとのGPIFの運用状況報告をご自身の資産と比較すれば、ご自身の運用結果を評価できると思います。
では、この巨大なファンド「年金積立金」が保有する4つの資産アセットは、それぞれどのような運用状況になったのでしょうか。【グラフ1】は、2023年12月末時点における4つの資産額の配分(四捨五入のため、合計が100%にはならない)と、各資産の運用状況です。
【グラフ1】内で示した期間収益率は、3カ月間の収益率です。年金運用のような長期投資では、参考程度に見ておけば良いでしょう。
最も運用が好調だった外国株式は、2022年度の収益率は年利1.84%、2023年1月~12月の期間収益率は20.97%です。1年で大きな幅があります。4半期ごとに運用報告を見続けていくことで、各資産の収益率の幅がだいたいどの範囲に収まるのか、傾向をつかむこともできます。
金融・経済環境によっては、本来リスクが低いとされる国内債券の運用が芳しくない期間もあります。長期運用のファンドですから、短期の結果に踊らされる必要はありません。ただ、長期運用だからと言って、長い間運用状況を見ないでいるのは別問題だと思っています。
資産と同時に経験も積み立てる
よく「自分に合った運用をしましょう」などと言われますが、自分に合う運用かどうかや自分のリスク耐性は、投資をしてみなければわかりません。また、金融資産の特徴を踏まえて自分なりの投資方針を立てるにも、経験が必要です。
自分に合った運用方針を見つけるまでの間や、経験を積み重ねるまでの間は、異なる投資対象を均等に運用する投信を購入するのも良いと思います。同じ期間に、どの資産が増えてどの資産が減ったのかを比較するには、均等に配分した方がわかりやすいからです。
また、各資産アセットの運用の違いはなぜ起こったのか、その背景となった出来事を振り返って考えてみることで、投資判断の学びになることでしょう。これを数年間続ければ、資金を積み立てると同時に経験も積み立てられるはずです。
【出典】
年金積立金管理運用独立行政法人「2023年度第3四半期運用状況(速報)」