気になるテーマ解説

NISAでも債券投資の検討余地?

2024年初めに盛り上がりを見せたNISA改正(新NISA)も2年目に入りました。つみたて投資枠と成長投資枠に分けられていますが、つみたてはS&P500や全世界株式(オールカントリー)、成長投資枠では配当や優待に魅力ありの株式が人気です。


2025年に入ってもその傾向は変わらず、2月は「eMAXIS Slim シリーズ」を運用する三菱UFJアセットマネジメントが資金流入額でトップだったとのこと。単月で5000億円超も資金が入っており、2位との差は3000億円を超えます。つみたてするファンドを途中で切り替えることは基本的にないので、今後もこの傾向が続きそうですね。


直近では株価が下落・・・

ただ、米国で第2次トランプ政権が誕生し手から相場が荒れ模様。3月は株価も大きく下げました。S&P500を2024年1月から定額で積み立てていた場合、直近の相場下落と円高進行によって含み益がほぼ帳消し。投資対象によってはマイナスの場合もあります。長期投資とはいっても相場が下がると心配になるのは当然で、不安から売却してしまったという声もあるようです。


S&P500 日足チャート

出所:トレーダーズ・ウェブ



資産運用の目的は人によってさまざまで、老後資金のため、子どもの教育費のため、趣味のためなど多岐にわたります。ただ、資金が必要な時に相場が大きく下げてしまうと計画も大きく狂う事態となりかねません。


投資の世界では「卵は一つのカゴに盛るな」という格言があるように、リスク分散することが推奨されます。これまでは株式市場が右肩上がりだったため、そこまで考える機会がなかったかもしれません。ただ、相場は上がったり下がったりするもので、時にはショック的な暴落もあります。



株式オンリーから視野を広げる

株式市場の下落リスクに対応するためには株式以外にも目を向ける必要があり、その一つに債券が挙げられます。債券は基本的に何年という満期があり、その間に金利がもらえる金融商品です。金利が低いと魅力が低いですが、昨今では日本の金利動向も変わってきたところです。


債券は額面100で発行されれば額面100で償還されるため、債券の募集時に買って満期まで持てば元本割れを起こさないことが特徴です。なお、満期までの間は市場で取引されるため価格が100から上下しますが、最終的には100になるという仕組みです。


定期預金に近い性質がありますが、発行体は国や自治体、企業なので元本保証ではありません。とはいっても、国がつぶれるのはよっぽどの非常事態ですし、大企業であれば簡単には倒産することはないでしょう。日々値動きが大きい株式に比べればリスクが低いため、安全重視の運用ニーズに合致する資産と言えそうですね。

 

出所:東京海上・円資産バランスファンド交付目論見書(24年10月24日)を基に弊社作成

過去5年間の各月末における直近1年間の騰落率の最大値と最小値


NISAで債券投資

債券も金利がもらえるので、可能であれば非課税で受け取りたいところ。ただ、NISAの投資対象商品は上場株式または投資信託などであり、債券は入っていません。個人向け国債や社債など、債券単体は対象外となっています。


一方、債券で運用する投資信託はNISA対象の商品が多いので、NISAで買う場合はこちらが対象になります。例えば「eMAXIS Slim シリーズ」では以下がNISA対象商品です。



出所:一般社団法人 投資信託協会 投資信託(非上場) 対象商品リストから抜粋


上で掲載した資産クラス別の騰落率を見てわかるように、株式に比べて債券の値動きは小さくなる傾向にあります。ただ、比較的リスクが小さいことは事実ですが、損する可能性がゼロというわけではありません。


債券の価格は長期金利(10年債利回り)と密接な関係があるため、長期金利の上昇局面では債券価格が下落、低下局面では債券価格が上昇しやすくなります。債券は基本的に固定金利なので、既発債券(金利の低い債券)は新発債券(金利の高い債券)に見劣りします。

こういった背景から、長期金利の上昇局面では古い債券の価格が下落し、債券に投資する投資信託の基準価格も下落しやすくなります。ということで、債券に投資する投資信託を買う場合は、そろそろ金利上昇が一服するかな?というときが買いを検討するタイミングです。


金利が高止まり時期に債券運用の投資信託を買うことができれば、ファンドが比較的利回りの良い債券を持っている状況で乗り込むことになります。日銀が目標とするインフレ目標は2%なので、日本の長期金利もそれに見合う2%まで上昇したとします。そこで金利が高止まりしたとすれば、国内債券で運用する投資信託の債券利回りも2%程度と想定されるので、分配金が出ないこと前提にすれば2%の複利運用が期待できることになります。


日々の債券の値動きがあるので次の限りではないですが、2%の複利運用が続いた場合、シミュレーション上では100万円は10年後に122万円(単利だと120万円)、20年後に149万円(同140万円)、30年後に181万円(同160万円)ほどとなります(運用コストや税金は考慮していません)。長期運用になるほど複利の効果が顕著になるので、株ほどのリスクは取れないけれど運用したいといった場合は、債券運用を検討したいところです。


個人の利用者はまだ少ない印象

ちなみに、私たちの年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は日本株、外国株、国内債券、海外債券に分散投資しています。GPIFの2001年度以降の平均リターンは年率4%ほどあり、累積の収益額はなんと164兆円!そのうち利子と配当収入は56兆円ほどあり、収益の3分の1を占めます。個人の投資においてもバランスは大事で、長期で長く続けるコツとして参考にしたいですね。


参考までに海外債券インデックスでは、為替リスクがあるものの基準価格が2倍となっている商品も少なくありません。株式ほどの爆発力はないかもしれませんが、長期運用では侮れない存在です。ただ、悲しいことに日本の個人投資家の間では債券投資はあまり話題になりません。今後注目されることに期待です。


なお、つみたてNISAの対象商品では債券インデックスのみの投資信託は見つけられませんでした。つみたて枠の場合はバランス型のみとなります。成長投資枠では対象商品も多いので、現時点では成長投資枠で選ぶしかなさそうですね。今後つみたてNISAでも買える商品が拡充されるか、こちらにも注目したいところです。


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日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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