近年、上場企業による「自社株買い」が増加しています。2023年の取得枠は約9兆6000億円で、2年連続過去最高額となりました。
企業が自社株買いにより取得した消却することでROEやEPSが上がりますので、株主への還元となります。企業にとっても買い戻した株式の配当を支払わずに済む、敵対的買収を防ぐことができる、株価が上がるなどのメリットがあります。
一方で、企業の自己資本比率が低下するというデメリットも生じます。
今回は自社株買いの概要とROEとの関係、株価への影響や注意点を解説していきます。
自社株買いとは?ROEとの関係
自社株買いとは、上場企業が自己資金を用いて自社の株式を買い戻すことです。
自社株買いにはTOB(株式公開買い付け)が用いられます。
自社の株式を購入して「消却(無効にする)」ことで、会社の発行済み株式総数は減少し1株当たりの価値は高くなります。
ただし買い戻した自社株を消却するか否かは企業が決定することですので、必ずしも消却されるとは限りません。消却をせず「金庫株」として保有することもあります。
自社株を消却することで、ROE(自己資本利益率)が高くなります。
ROE (Return On Equity)
当期純利益/自己資本×100
当期純利益が自己資本の何%にあたるのか
自己資本(株主から集めたお金)を用いて企業がどれだけ当期純利益をあげたのか、経営の効率性を示す指標です。
ROEが高いと高効率な経営が行われており、会社の収益性や成長性を期待できます。
ただし自社株買いのROEは分母の自己資本を用いて自社の株を購入し自己資本が減少した結果、ROEが上がっている状況です。
当期純利益が増加したわけではありませんので、注意しましょう。
自社株を消却すると、ROEだけではなくEPS(1株当たりの利益)も上がります。
自社株買いの後は株価が高くなる傾向が
自社株買いは株主に好印象を与えることが多く、発表された後は株価が上がる事例が多いです。
例えば2024年2月6日には、株式会社リコーが取引終了後に3600万株の自己株式の取得・消却を発表しました。3600万株は、発行済株式総数(自己株式を除く)に対して5.9%を占めています。
出典:TradingView
上記のチャートは株式会社リコーの2024年2月3~8日の株価ですが、7日以降は上昇しています。2月6日の終値は1188.5円ですが、2月8日の終値は1268.5円でした。
自社株買いをする企業が増加
自社株買いは近年増加しており、2023年の取得枠は約9兆6000億円と2年連続で過去最高となりました。
なぜ自社株買いをする企業が増えたのでしょうか?
自社株買いは、企業にとっても自社の株式を買い戻すことで買い戻した分の株式の配当金を支払わずに済むというメリットがあります。
配当金を支払うことによって、株主にとっては利益の還元になりますが企業の「財務活動によるキャッシュフロー(お金の流れ)」はマイナスになってしまいます。
配当金を出さずに株主に利益を還元できる自社株買いは、企業の財務状況の改善にも役立つのです。
加えて、近年配当金を増やすよりも自社株買いの方が株主に好印象を与え株価が高くなる傾向があります。
自社株買いの注意点
自社株買いにあたっては、企業が株式を消却するのかをチェックしましょう。
取得した自社株式を償却すると、ROEやEPSが上昇しますが償却をせず保有するケースもあります。
また、自社株買いの目的が「株主への利益還元」だけではない点に注意しましょう。
近年自社株買いによって株価が上がる傾向にありますので、自社株買いは株価低迷への対策として用いられることがあります。
ただし、企業にとっては資金が減ってしまいますので、今後の資金繰りに悪影響を及ぼす恐れがあります。
そして手元の資金を使って自社株を購入しますので、自己資本比率は低下します。
自社株買いが発表された後は株価が上がり、利益確定で売却する株主が増え株価の動きが激しくなることもあります。
まとめ
自社株買いは株主にとって好印象を与え、株価が上昇する傾向にあります。
近年自社株買いを行う企業が増加していますが、自社株買いにはメリットだけではなくデメリットもあることをおさえておきましょう。