カンザスシティ・チーフスのスーパーボウル制覇、米株のインパクトは?

テイラー効果、バイデン大統領など民主党陣営も波に乗る


スーパーボウル第58回が開催され、延長戦の激闘をカンザスシティ・チーフスが制し2連覇を果たしました。グラミー賞出席、2月10日まで4日間に及ぶ日本公演を終えたその足でスーパーボウルに駆け付けたテイラー・スウィフトの登場でメディアは大賑わいでしたが、スーパーボウルの結果を受け、カンザスシティ・チーフスに所属するトラビス・ケルシー選手と熱い抱擁で勝利を祝し、さらにヒートアップしたのは言うまでもありません。ハーフタイム・ショーの白羽の矢が立ったR&Bアーティストのアッシャーが霞むほどに、テイラー・スウィフト旋風が巻き起こっていました。


ホワイトハウスも、テイラー効果の波に乗りました。バイデン大統領はX(旧ツイッター)に赤いレーザーアイズの写真と共に「まるで我々が描いた通り」とのコメントを投稿。クリントン元国務長官に至っては「おめでとう、テイラーの彼氏、そしてカンザスシティ・チーフスのファン含むコミュニティ!」と、スーパーボウルに勝利したチームよりテイラーを全面に押し出していました。こうした投稿により、一部の陰謀論者の間で“八百長”が取り沙汰されてしまったものです。


画像:バイデン大統領の「まるで我々が描いた通り」とコメントした投稿

 

(出所:Joe Biden/X)


画像:クリントン元国務長官、テイラーの名を明記する一方、カンザスシティ・チーフスのトラビス・ケルシー選手は「彼氏」にとどめ、批判を受ける

 

(出所:Hillary Clinton/X)


そもそも、テイラーは元カントリー歌手で南部テネシー州ナッシュビルの出身とはいえ、民主党支持者で有名です。トランプ前政権下での2018年の中間選挙前に、テイラーが民主党候補への投票を呼び掛け、48時間以内に16万人が有権者登録を行ったと報じられたものです。2020年の米大統領選直前の10月には、バイデン氏への支持を表明しました。2023年9月も、2億7,200万人のフォロワーに有権者登録を促すメッセージをインスタグラムに投稿。その後、同氏がフォロワーに誘導した超党派の非営利団体Vote.orgによれば、3.5万件以上の登録を記録したといいます。そのテイラーがカンザスシティ・チーフスの選手と付き合い、全力でNFLに絡んだ上に、バイデン氏やクリントン氏などからのXの投稿もあって、保守派の間で陰謀論が渦巻く有様となりました。


テイラー効果で、スーパーボウルの観戦者は1億2,340万人と過去最多


とはいえ、テイラーのスーパーボウル参戦はナショナル・フットボール・リーグ(NFL)を始め、メディアや広告業界、さらに米経済と米株相場をかつてないほど盛り上げたことは事実です。


テイラーがカンザスシティ・チーフスの選手と付き合い始めた結果、スーパーボウルを含め2023年シーズンの試合に13回登場しましたが、アペックス・マーケティング・グループによると、NFLとカンザスシティ・チーフスに3.3億ドル以上の利益をもたらしたといいます。


また、オンライン融資大手レンディング・ツリーの調査によると、ミレニアル世代(1981~1996年生まれ)の20%、ジェネレーションZ(1997~2012年生まれ)の24%が、テイラーの存在によりフットボールに関心を持ったと回答。実際、CBSスポーツによると、2023年シーズンのAFCチャンピオンシップ・ゲームの視聴者数は約5,500万人、過去最高を記録しました。


何より、今年のスーパーボウルの視聴者数がテイラー効果を最も鮮烈に物語ります。今回は1億2,340万人と、前回の1億1,150万人を超え、過去最多を更新していました。今年のスーパーボウルの広告費は2023年と同じく30秒700万ドルのところ、放映権を獲得したCBSの親会社パラマウント・グローバルが潤ったのは想像に難くありません。そのほか、アルファベット傘下やYouTube、メタ・プラットフォームズ傘下のフェイ氏ブックやインスタグラムなども広告増加の恩恵にあずかったことでしょう。

航空業界も、テイラー旋風を受けました。スーパーボウルの開催地のネバダ州に数多くのプライベート・ジェット機が舞い降り、ワシントン・ポスト紙がWINGXのデータを基に明らかにしたところ、882機だとか。2023年のアリゾナ州でのスーパーボウルでの932機に続き、2006年にデータを公表して以来、過去2番目だったといいます。


スーパーボウル観戦と言えば、チキンウィングやチップス、ビールなどアルコールがお供とあって、食品飲料メーカーやNFLとタイアップした衣料品メーカー、レストランチェーンも好影響を受けたと考えられます。さらには電化製品などの買い替え需要も意識され、飲料メーカーのコカ・コーラやペプシコ、食肉大手タイソンフーズや会員制卸売チェーン大手コストコ、さらには家電小売大手ベスト・バイの売り上げに追い風が吹いたのではないでしょうか。こうした需要が一時的だとしても、消費活動が促進されれば米経済を押し上げ、米株市場にもプラスとなること必至。利下げ期待が後退しかねませんが、ソフトランディング期待をもたらしそうです。


スーパーボウル・インデックスはS&P500の年間リターンがマイナスとなる暗示も…


テイラー効果で景気のよい話が飛び込む半面、“スーパーボウル・インデックス”では不吉な暗示が出ています。”スーパーボウル・インデックス“とは、アメリカン・フットボール・カンファレンス(AFC)のチームが優勝すれば、その年のS&P500は下落、逆にナショナル・フットボール・カウンシル(NFC)のチームが勝利するならS&P500の年間リターンは上昇するというもの。


今回はAFCに属するカンザスシティ・チーフスが栄冠に輝いたため、年間のリターンはマイナスとなる暗示が出たというわけです。ただし、心配無用かもしれません。1968年以降の勝率は54.3%であるものの、2016年以降の8年間は2023年含め1勝7敗と惨澹たる結果なのです。しかも、カンザスシティ・チーフスが制した2023年も、アノマリー通りなら株安となるはずが、24.3%高でした。


むしろ、カンザスシティ・チーフスがスーパーボウルを制した1970年、2020年、2023年の3回において、S&P500の年間リターンは全てプラスでした。しかも、平均上昇率13.5%高なだけに、カンザスシティ・チーフスから、米株高へのパスが送られたと言えそうです。


チャート:スーパーボウル・インデックス、2016年以降は1勝7敗と惨澹たる結果(注: 2010年から掲載)

 


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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