流通大手のイオン傘下で売上高首位のウエルシアホールディングスと、同2位のツルハHDが2027年の統合を目指して合併協議を開始しました。飽和状態を迎える国内市場において、店舗網の効率化や商品開発力の向上を目指します。
いわゆるドラッグストア業界は1990年代の登場以来、着実に店舗数を増やし、今や押しも押されもしない社会インフラとなりました。最大手同士の今回の合併劇を、さまざまな視点から見てみましょう。
売上高2兆円企業が誕生するか
既に両社は1995年に資本業務提携をしており、約30年越しに一段階進んだ統合を目指します。今回の合併はイオン主導です。関東・中部地方に地盤のあるウエルシアと、北海道・東北に強いツルハが合併することで、主に東日本に巨大な店舗ネットワークを有するドラッグストア網が誕生します。
両者の売上を単純加算とすると、売上高は2兆円に達します。日本のドラッグストアは海外からの来日客からも評価は高く、いわゆる「爆買い」の受け皿としての存在感も期待されます。
2つの巨大グループが誕生することに
ウエルシア・ツルハの双璧となるのが、2021年10月に経営統合したマツモトキヨシとココカラファインです。両社の統合により誕生したマツキヨココカラカンパニーグループは、3000店舗以上の販売網を構築しています。相次ぐ巨大グループの誕生はドラッグストア全体の対外的な存在感を高め、コンビニエンスストアの競合となる可能性さえも秘めています。
生活品や食材を扱うドラッグストアも増加
近年のドラッグストアは市販薬のほか、医師の発行する処方箋を扱える店舗もあります(一般のレジとは別に薬剤師が常駐している所でなければ扱うことはできません)。薬剤師が調剤をしているあいだに食材などほかの買い物もできるのが、コンビニに対するドラッグストアの最大の武器です。
薬剤と薬剤師の稼働コスト、一般食材の流通にメスを入れることが目的
今回のようなM&Aの最大の目的は、流通コストにメスを入れることが大きいと考えられます。店舗規模は流通業者に対する優位性を高め、価格交渉力を増すことで小売価格の値下げに転嫁することができます。
また市販薬を扱う製薬会社に対しても、ドラッグストアとのあいだで熾烈な価格交渉があるという話を聞きます。少しでも価格を維持したい製薬会社と、少しでも安売りしたいドラッグストアのあいだでの駆け引きです。
一方でドラッグストアの難点とされるところに薬剤師不足があります。薬剤師が不足していることで販売できる医薬品が限定的になります。この不足を補うため、薬剤師の待遇改善は不可欠です。そのため店舗を増やし、流通コストを下げることで薬剤師の賃金に転嫁する戦略を、数年前から各社は進めています。
また背景のひとつには、現状の市販薬の販売がインターネットで部分的にしか解禁されていないことと関係があります。詳しく見ていきましょう。
Amazonやオンライン調剤が浸透するには時間がかかる
店舗販売で地盤を築いたほぼすべての商材がAmazonの進出を恐れています。当然医薬品も例外ではありません。ただ医師の調剤が不要で、薬局やドラッグストアで自分で選んで購入できる市販薬ことOTC医薬品は、以下のように分類が分かれています。
オンライン事業者にとっては、一般用医薬品に限定して勢力を伸ばしている事業者もいますが、ドラッグストアのスケールメリット狙いの拡大の脅威にはなっていないという印象です。Amazonにおいても「Amazon 市販薬」で検索すると、いまいち力の入っていないラインナップの印象があります。
規模感の追求の果てにウエルシアがオンラインを展開する可能性
そもそもインターネットを中心とした販売網が確立したとしても、ドラッグストアを訪れる来店客への影響は限定的です。ほかの商材と比べ、「きちんと対面で買いたい」という心理的ハードルが高いのも市販薬の特徴です。市販薬の必要な高齢者ほど、その傾向は強いといえるでしょう。
今回の合併劇から予測できるのは、ドラッグストア大手はまずスケールを追求するということ。その先に店舗基盤によって、処方箋のオンライン受付や郵送などが展開されることでしょう。売上2兆円を超える再編成には、事業のこれからをめぐる様々な思惑が併走していることがわかります。