【米国株インサイト】クラウドサービス(後編): 多様なプレイヤーが利便性の高いサービス

クラウドコンピューティングはもはやIT社会の基幹となるインフラの一部で、ビジネスなどの経済活動にはもちろん、快適な日常生活を送るのにも不可欠なサービスです。特に企業にとってはインターネット経由で利用できるパブリッククラウドの恩恵は大きく、自社内にシステムを構築して運用するのに比べて導入や保守の費用と手間を大幅に低減できるメリットがあります。


前回はクラウドサービスセクターの前編として、ビッグデータの保管や分析といったサービスを提供するスノーフレイク(SNOW)をご紹介しました。今回はネットワーク機器を開発するアリスタ・ネットワークス(ANET)、サイバーセキュリティーを提供するZスケーラー(ZS)、データ管理ソフトウエアの開発を手掛けるネットアップ(NTAP)、ソフトウエア開発のデータドッグ(DDOG)の4銘柄を取り上げます。


アリスタ・ネットワークス、ネットワーク機器を開発

アリスタ・ネットワークスはネットワーク機器の開発を手掛けています。自前の設備で運用するクライアントネットワークからクラウドネットワークまでを対象にハードウエアとソフトウエアを組み合わせたソリューションを提供します。


主力はデータセンター・システムとクラウドネットワーキング・システムです。拡張可能なオペレーティングシステム(EOS)と呼ぶソフトウエアを搭載したイーサネットスイッチやルーターなどの製品が中核で、自動化や分析、ネットワークのモニタリング、セキュリティーなどの機能を持つアプリケーションも提供します。


クラウド関連サービスはアリスタにとって大きな収益源となっています。企業などの顧客にとっても自前でデータセンターを抱えるオンプレミス型に比べ、クラウドはコスト面などで圧倒的に魅力的です。アリスタがクラウド環境への移行を望む顧客向けに開発したソリューションが「クラウドビジョン(CloudVision)」で、関連のネットワーク機器の販売増に結びついているようです。


顧客は大規模なクラウドサービスプロバイダーやインターネットプロバイダー、政府機関をはじめ、金融、メディア・娯楽、ヘルスケア、石油・ガス、教育、製造といったセクターに属する企業です。メタ・プラットフォームズ(META)とマイクロソフト(MSFT)が大口顧客で、2023年12月期の売上高に占める割合はそれぞれ10%を超えています。



競合はシスコ・システムズ(CSCO)やエヌビディア(NVDA)、エクストリーム・ネットワークス(EXTR)などです。特にアリスタの急成長で、業界で支配的な地位を維持してきたシスコ・システムズが影響を受けているとも報じられています。


ちなみにアリスタのジェイシュリ・ウラル最高経営責任者(CEO)は約15年にわたりシスコ・システムズで働き、データセンター&スイッチング部門のシニアバイスプレジデントにまで昇格しました。シスコ・システムズを離れた後にアリスタを成長させたジェイシュリ・ウラルCEOの手腕は高く評価されているようです。


ジェイシュリ・ウラル氏は現在、前述したスノーフレイクの取締役を務めています。また、2008-10年に後述するZスケーラーの取締役を務めるなど業界内での信頼は厚いといえそうです。


アリスタは生産機能を持たず、ネットワーク機器の製造はすべて外部に委託しています。電子機器製造受託のサービス(EMS)のフレックスや鴻海精密工業などに発注しているのです。


Zスケーラー、クラウド環境向けにサイバーセキュリティー提供

Zスケーラーはクラウド環境向けサイバーセキュリティーのプロバイダーです。ネットワークの内外ともに「信頼できない」と仮定して対策を講じるゼロトラスト(何も信頼しない)の考え方に基づき、ソリューションを開発しています。


クラウドでの利用を前提に開発したプラットフォームが「Zスケーラー・ゼロトラスト・エクスチェンジ(Zscaler Zero Trust Exchange)」です。ユーザー、デバイス、アプリケーションを安全に接続し、サイバー攻撃や情報漏洩から顧客を保護しています。


Zスケーラー・インターネット・アクセス(ZIA)というウェブゲートウェイはサイバー空間の脅威やデータ流出からユーザーを保護しながら高速なネットアクセスを可能にし、パブリッククラウド・アプリケーションに格納されたデータを保護する機能も持ちます。



Zスケーラー・プライベート・アクセス(ZIA)と呼ぶゲートウェイは、安全なアプリケーションへのアクセスを実現すると同時にアプリケーション自体も保護します。また、Zスケーラー・デジタル・エクスペリエンス(ZDX)はエンドユーザーの視点から監視し、問題のあるアプリケーションやネットワーク、デバイスを修正する機能があります。


こうしたクラウド環境のセキュリティー機能は高く評価され、2023年7月末時点で約185カ国・地域に7700を超える顧客を抱えます。売上高の成長は著しく、2022年7月期は前年比62.1%増の10億9100万ドル、2023年7月期は48.2%増の16億1700万ドルに伸びています。


ネットアップ、データ管理ソフトウエアを開発

ネットアップはデータ管理ソフトウエアの開発を手掛けています。クラウド環境下でデータが積み上がり、管理が複雑になる中、セキュリティー機能でデータを保護しつつ利用者によるアクセスを容易にするというタスクを実行します。


強みは◇複数のクラウドを併用するハイブリッドクラウドやマルチクラウドといった環境下でもオープンソースやオープンアーキテクチャーを利用した簡素な運用が可能◇共通のストレージ基盤を通じたデータやアプリケーションの移動のシームレス化◇総合的なサイバーの強靭化に向けた監視、データ保護、セキュリティー、ガバナンスといった機能の統合◇人工知能(AI)駆動型のオートメーションを活用した継続的なアプリケーションの最適化――などです。



主力製品はデータ管理ソフトウエアの「ONTAP」です。多様なデータ管理機能に加え、ランサムウエアに対する自動防御といったサイバー攻撃に対する防御機能も備わっています。オンプレミス型のデータセンターをはじめ、ハイブリッドクラウド、パブリッククラウド、プライベートクラウドなど広範なアーキテクチャーに対応できるという特徴もあります。


ネットアップの業績は上下動を繰り返しながらも着実に伸びており、2023年4月期には売上高が前年比0.7%増の63億6200万ドル、純利益が36.0%増の12億7400万ドルとそろって過去最高を更新しています。


データドッグ、クラウド環境下のアプリケーションを開発

データドッグは、ITインフラストラクチャーやアプリケーションのパフォーマンスの監視・分析、ログデータの管理、クラウドセキュリティーの提供といった機能を持つソフトウエアを開発しています。クラウド上にあるソフトウエアをインターネットでアクセスして利用するSaaSで顧客に提供します。


オンプレミス型やハイブリッドクラウド、マルチクラウド、パブリッククラウドなどあらゆる環境に対応します。監視の対象になるのはネットワークやネットワーク機器、データベース、データストリームなどです。



中小企業から大企業まで組織の規模にかかわらずデータドッグのサービスが使われています。対象のセクターも広範にわたり、企業や団体はデジタルトランスフォーメーションやクラウド環境への移管などに役立てています。


2023年末時点で150以上の国・地域に2万7300超の顧客を抱えます。2020年末の顧客数1万4200から3年でほぼ倍増しています。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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