【米国株インサイト】映画セクター(後編):ワーナー創立100周年、バービーが大ヒット

映画は依然として米国のエンターテインメントの中で重要な地位を占めています。報道によると、2023年の米国とカナダの映画興行収入は約90億ドルで、2022年に比べて20%増えています。パンデミック前の水準には戻っていませんが、それでも2019年の実績の8割程度まで回復しています。


米国の映画セクターの前編では、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」などのヒットで8年ぶりに興行収入で首位を奪取したユニバーサルと大ヒット作不在の首位を明け渡したディズニーをご紹介しました。


今回は創立100周年にメガヒットを記録したワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)、再編をめぐり風雲急を告げるパラマウント・グローバル(PARA)、大善戦のライオンズ・ゲート・エンターテインメント(LGF-A)をご紹介します。


ワーナー、創立100周年にバービーが大ヒット

ワーナー・ブラザース・ディスカバリーは、通信大手のAT&T(T)から分離したワーナーメディア事業とノンフィクション・コンテンツのディスカバリーが統合し、2022年4月に誕生しました。ニュースチャンネルのCNNやドラマチャンネルのHBOなどを傘下に置いています。


セグメントはネットワーク部門、映画部門、DTC部門の三つに分かれています。テレビ放送などで構成するネットワーク部門は2023年12月期の売上比率が48.7%、映画部門が28.0%、ストリーミングなどの動画配信やドラマチャンネルなどで構成するDTC部門が23.3%です。



映画部門は、映画の製作と配給をはじめ、テレビ局や動画配信事業者への映画コンテンツのライセンス販売なども手掛けています。映画の知的財産権ビジネスでは、ハリー・ポッター関連のコンテンツが強く、傘下のワーナー・ブラザース・ゲームスなどがゲームの開発や配信を手掛けています。


テーマパークも映画コンテンツの一部で、東京都練馬区のとしまえんの跡地に開業した「ワーナー・ブラザース・スタジオツアー東京」の収益も映画部門に組み込まれています。


映画事業はワーナー・ブラザース・ピクチャーズが主軸で、このほかに「指輪物語」を原作とする「ロード・オブ・ザ・リング」三部作を配給したニュー・ライン・シネマもグループ企業です。


1923年に創業したワーナー・ブラザース・ピクチャーズは2023年に創立100周年を迎えました。この節目の年に記録的な大ヒットとなった作品がバービー人形の世界を実写化したコメディー映画「バービー」です。興行収入は14億4600万ドルで、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」を抑えて2023年の第1位に輝きました。



バービー人形は玩具メーカーのマテル(MAT)の製品で、今でも売上高の柱のひとつです。バービーもそうですが、マーベル・コミックから生まれたヒーローなど、人々が子どものころから親しんだキャラクターが映画の大ヒットにつながるパターンが多いようです。


ディズニーがマーベル・コミックという武器を持つのに対し、ワーナー・ブラザースにはDCコミックスという財産があります。マーベルとDCはアメコミの2大巨頭で、DCのヒーローにはスーパーマンやバットマンがいます。ワーナー・ブラザースもディズニーと同様、アメコミのヒーローから多大な恩恵を受けていると言えそうです。


パラマウント・グローバル、再編の動き慌ただしく

パラマウント・グローバルは映画スタジオとしての創業が1912年で、ユニバーサルと並ぶ歴史ある製作会社です。ただ、グループの事業別の内訳では、テレビネットワークのCBSを軸とするテレビメディア部門が2023年12月期の売上高の67.4%を占める稼ぎ頭です。


ストリーミングの動画配信サービスの「パラマウントプラス」などのDTC部門は売上比率が22.6%。映画部門の売上比率は9.9%にとどまっています。


映画部門の中心であるパラマウント・ピクチャーズはハリウッド映画の名門で、「トップガン」シリーズや「インディジョーンズ」シリーズなどの製作や配給を手掛けた実績を持ちます。アニメでは傘下のニコロデオン・スタジオが「スポンジ・ボブ」や「ザ・ペンギンズ」などを手掛けています。



2023年の映画興行収入は20億2700万ドルとソニー・ピクチャーズの20億9400万ドルにわずかに届かず、スタジオ別で第5位でした。作品別では「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング」が5億6800万ドルで9位、「トランスフォーマー/ビースト覚醒」が4億3900万ドルで13位でした。


パラマウント・グローバルは、「ミッション:インポッシブル」シリーズや「トップガンシリーズ」の製作を手掛け、長年にわたり協力関係にある映画製作会社スカイダンス・メディアと合併する方向で交渉に入り、暫定的に合意したと報じられています。


ライオンズ・ゲート、ミニメジャーが大善戦

ライオンズ・ゲート・エンターテインメントは、これまでにご紹介したスタジオにソニー・ピクチャーズを加えた5大スタジオに次ぐ存在で、咆哮するライオンで知られるMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)スタジオなどと並び、ミニメジャーと呼ばれています。ちなみにMGMスタジオは2022年にアマゾン・ドットコム(AMZN)に買収されています。


ライオンズ・ゲート・エンターテインメントも映画やテレビ番組の製作、ライセンスの販売、ストリーミングの動画配信などを通じて収益を上げています。映画では低予算でときに大ヒットを飛ばすことで知られ、2016年に公開されたミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」が代表例と言えそうです。


売上高に対する貢献をみると、2024年3月期決算の売上比率は映画部門が36.3%となり、前年の28.6%から大きく上昇しました。テレビ部門は売上比率が29.2%と前年の38.0%から下落し、動画配信などを含むメディアネットワーク部門が34.5%と映画部門の比率が最も高くなりました。



2023年(暦年)には映画ビジネスで大善戦したのが売上比率上昇につながりました。世界興行収入は11億ドルで、5大スタジオに次ぐ6位に輝いています。


ライオンズ・ゲートの2枚看板ともいえる「ジョン・ウィック」シリーズと「ハンガー・ゲーム」シリーズの最新作が公開され、ともにヒットしたことが功を奏しました。作品別の興行収入は「ジョン・ウィック:コンセクエンス」が4億4000万ドル、「ハンガー・ゲーム0」が3億3700万ドルに達し、全体を押し上げています。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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