多くの人の生活実感では、景気や暮らし向きは良くない

日本銀行では、全国の20歳以上の個人4,000人を対象に、年4回、生活意識に関するアンケート調査を行なっています。2024年5月上旬から6月上旬にかけて実施した最新の調査から、人々が感じる経済などへの実感について、3回に分けて見ていきましょう。今回は、景況感や暮らし向きについてご紹介します。


「生活意識に関するアンケート調査」とは


「生活意識に関するアンケート調査」は、対象が個人で、暮らし向き、物価の動きといった生活実感や消費行動などについて質問し、人々の意識や行動を把握する一種の世論調査です。例えば、「世の中の景気は良くなっているか」「暮し向きは、ゆとりが出てきたか」「収入や支出は増えているか」「物価は上がっているか」「雇用に不安はないか」などの質問があります。


7月、日銀は金融政策を見直し、政策金利を引き上げました。「生活意識に関するアンケート調査」は、このような政策・業務運営の参考にもなっています。


この「生活意識に関するアンケート調査」の結果は、投資家にとっても参考になるかと思います。企業業績や株式市場の需給を見る上で、人々の景況感は重要だからです。皆さんは、景気指標と個人の肌感覚との間にギャップを感じた経験がありませんか? 改めて、消費者が抱いている景況感を確認してみましょう。


なかなか「景気が良くなる」とは思えない


【グラフ1】は、「1年前と比べて、今の景気はどう変わりましたか」「1年後の景気は、今と比べてどうなると思いますか」という質問の回答結果の推移です。


青色の折れ線グラフは、調査時にその1年前と比べた現在の景況感です。オレンジ色の折れ線グラフは、調査時の1年後について、景気がどうなると思うかを尋ねています。「景況感D.I.」とは、「良くなった・良くなる」と回答した割合から「悪くなった・悪くなる」と回答した割合を引いた値です。



こうしてみると、人々の景況感はほとんど悪いままです。2012年12月からの第2次安倍政権の下でアベノミクスに沸いた時期ですら、1年前に比べて「良くなった」と回答した人より「悪くなった」と回答した人の方が多くなっています。ただ、この時期に限っては、質問時点までの1年間の景況感と、その先の1年後の景況感についてのD.I.がほぼ同じ水準で推移しています。他の時期ほど景気の悪さが感じられない分、より良くなるとまでは予想していなかったようです。


質問時点の景況感が非常に悪かったのは、2009年のリーマン・ショック近辺と、2020年の新型コロナウィルス感染症が拡大した時期。さすがに最悪期には「これ以上悪くなりようがない」と思うのでしょうか、1年後の景況感は改善を予想する人が多かったようです。


新型コロナ禍以後は、徐々に良くなっていると感じられてはいるものの、直近については一進一退の様子が伺えます。


なお、この調査では、景況判断の根拠についても質問しています(2つまでの複数回答)。2024年6月調査では、回答の多い順に「自分や家族の収入の状況から」「マスコミ報道を通じて」「勤め先や自分の店の経営状況から」となっています。


あなた自身の暮らし向きは


次は、人々の暮らし向きの変化について見てみましょう。「1年前と比べて、あなたの暮らし向きがどう変わったと感じますか」という問いに対し、回答の選択肢は「ゆとりが出てきた」「どちらとも言えない」「ゆとりがなくなってきた」の3択です。


「ゆとりが出てきた」と回答した割合から「ゆとりがなくなってきた」と回答した割合を引いた「暮らし向きD.I.」は、2024年6月調査では、-52.1でした。【グラフ2】は、「暮らし向きD.I.」の推移です。



2024年6月調査で「ゆとりが出てきた」と回答した人に対して、その理由を複数回答で尋ねたところ、多い順に「給与や事業などの収入が増えたから」(65.8%)、「利子や配当などの収入が増えたから」(19.7%)、「不動産・株式などの資産の価格が上がったから」(19.7%)となっていました。


一方、「ゆとりがなくなってきた」と答えた人は、「その他」を除いた多い順で「物価が上がったから」(91.4%)、「給与や事業などの収入が減ったから」(34.2%)、「利子や配当などの収入が減ったから」(7.0%)という理由を挙げていました。9割以上の人が実感するほど、物価上昇は生活に打撃を与えていることがわかります。


過半数が「金利が低すぎる」と感じていた


いまマーケットが最も注目している金利については、どのように感じているでしょうか。2024年6月調査の回答時期は、2024年5月9日~6月4日。「景気の状況を考えたとき、現在の金利水準をどのように考えますか」という質問です。


選択肢は3つ。「金利が低すぎる」と回答した人は51.7%で、前回調査(2024年3月)の51.1%よりやや増加しました。新型コロナによって超低金利政策を発動した後、「金利が低すぎる」と感じている人が増え続けている傾向です【グラフ3】。「適当な水準である」と感じる人が減少し、「金利が低すぎる」と感じるようになっています。反面、「金利が高すぎる」と感じる人も一定数おり、今回調査では14.8%と、前回の13.7%より増加しました。



「金利が高すぎる」と回答した割合から「金利が低すぎる」の回答割合を引いた「金利水準D.I.」は-36.9。前回調査の-37.4からマイナス幅は縮小しました。


このように、6月調査の時点で半数以上の人が「金利が低すぎる」と感じていました。低すぎると感じる人が多いならば、利上げは肯定されても良さそうなものですが、実際に日銀が利下げを決定すると、株式市場はご承知の通り大暴落となりました。


次回は、「生活意識に関するアンケート調査」から、主に収支についてご紹介します。賃上げが進みましたが、人々はどのように感じているのでしょうか。


【参考サイト】

生活意識に関するアンケート調査」(日本銀行)

ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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