日本銀行では、全国の20歳以上の個人4,000人を対象に、年4回、生活意識に関するアンケート調査を行なっています。2024年5月上旬から6月上旬にかけて実施した最新の調査から、人々が感じる経済などへの実感について、3回に分けて取り上げています。今回は、収入と支出についてご紹介します。
収入が増えたと答えた人は、約16%
日銀が個人を対象に実施している「生活意識に関するアンケート調査」の結果は、政策・業務運営の参考にされています。この調査結果は、投資家が投資判断を下す場合にも役立つのではないでしょうか。
前回記事『多くの人の生活実感では、景気や暮らし向きは良くない』でご紹介した通り、人々の暮らし向きは「ゆとりがなくなってきた」と感じる人が増えてきました。その理由として最も多かったのが「物価上昇」(91.4%)。次いで多かったのが「収入減」(34.2%)でした。
今回はまず、この収入から見ていきましょう。
1年前と比べ、世帯収入がどう変わったかという質問に対し、「増えた」と答えた人は15.9%。「変わらない」は53.1%、「減った」は29.6%でした。幅広く賃上げが実施されたと報道されていますが、2024年5月9日~6月4日に実施した本調査でこの程度です。
しかしそれでも、比較可能な2006年以降の調査結果の中では、「増えた」という15.9%は最高です。リーマンショック後の2009年は4%台まで落ち込み、コロナ禍では7%台でした。2023年3月調査以降は10%台を維持し、2023年12月調査以降、3回連続で増加しています。
さらに、1年後の世帯収入が現在と比べてどうなると思うかを尋ねたところ、「増える」と思う人は12.2%、「変わらない」が55.4%、「減る」は31.0%でした。全体的に、先の見通しは明るくないと見ている傾向です。減る理由は、景気や物価の変動が収入に反映されるからという人が多いようでした。
6割近い人が、1年前より支出が増えたと感じている
次は、支出の変化に対する実感を見てみましょう。【グラフ1】は「1年前と比べて世帯支出がどう変わったか」を尋ねた回答の推移です。
2020年6月調査から、新型コロナウイルス感染症による行動制限の影響を受けていると推測しています。感染症法上の5類に移行したのは2023年5月ですが、その1年前ごろから物価が上向きになっていました。2021年12月を転機として「増えた」と感じている人が急増し、「変わらない」「減った」という人が低下しているのは、物価上昇の影響ではないかと考えられます。
「支出が増えた」と答えた人に、その理由を複数回答で尋ねたところ、「生活関連の物やサービスの値段が上がったから」は2024年6月調査で86.6%。2022年9月以降、80%台の高水準です。以下は「教育関連の支出が増えたから」が24.7%、「車など耐久消費財を購入したから」が12.2%。物価上昇は、ダントツの理由となっていました。
一方、支出が「減った」と答えた人の理由(複数回答)は、「収入が減ったから」(59.4%)、「将来の収入増が見込まれないから」(46.6%)。収入減や将来の収入不安があるために、物価上昇でも支出を抑えている様子です。
生活費などは支出増、趣味やレジャーは「変えていない」人が増加
前述の通り、支出が増えた理由として、9割近くの人が物価上昇と回答していますが、もう少し踏み込んだ質問があり、とても興味深かったのでご紹介しましょう。
1年前と比べて支出をどうしているかという質問で、対象を「生活費や教育費などの日常的な支出」と「趣味やレジャーなど選択的な支出」に分けています。回答の選択肢は、どちらも「増やしている」「変えていない」「減らしている」の3択。【グラフ2】に2つの質問をまとめてみました。
日常的支出は、リーマンショックで落ち込んだ後は、増加傾向です。2023年以降は、減らしている人と割合が逆転。物価高でも必要なものは買わなければならないのでしょう。日常的支出を変えていない人も、近年は下がっています。
趣味やレジャーといった選択的支出は、高い時には70%近い人が「減らしている」と答え、節約志向が伺えましたが、最近では50%を下回り、減らしている人が減っています。代わりに増えているのは、選択的支出を「変えていない」という人。「減らしている」と答えた人との差が縮まっています。価格が上昇しても、上限を決めてその範囲内で楽しんでいるのかもしれません。この点が、日常的支出と異なっていると感じます。
今後の支出は物価を重視
今後1年間の支出の予想については、多い順に「変えない」(45.0%)、「減らす」(42.1%)、「増やす」(10.9%)という回答です。
今後1年間の支出を考えるにあたって特に重視することとしては、多い順に「今後の物価の動向」(68.3%)、「収入の増減(50.3%)、「余暇・休暇の増減」(22.2%)となっています(複数回答)。以前は「収入の増減」がトップでしたが、2022年6月に「今後の物価の動向」との順位が逆転しています。
また、「今後1年間、商品やサービスを選ぶ際に特に重視すること」として、「その他」を含めた9つの選択肢を提示したところ、上位は「価格が安い」(59.5%)、「安全性が高い」(46.3%)、「長く使える」(41.7%)、「信頼性が高い」(40.7%)、「機能が良い」(28.3%)となりました(3つまでの複数回答)。
7割近くの人が、支出を考える際に物価の動向を重視し、商品は価格の安さで選ぶというのが目下の状況です。昨今は、物価動向が家計管理のカギといえるでしょう。
次回は、「生活意識に関するアンケート調査」の物価に関する結果をお伝えします。人々は、現状の物価に対してどう受け止め、将来の物価をどう読んでいるでしょうか。
●関連記事『多くの人の生活実感では、景気や暮らし向きは良くない』
【参考サイト】
「生活意識に関するアンケート調査」(日本銀行)