今後の物価はどうなる?

日本銀行では、全国の20歳以上の個人4,000人を対象に、年4回、「生活意識に関するアンケート調査」を行なっています。2024年5月上旬から6月上旬にかけて実施した最新の調査から、人々の経済などへの実感について、3回に分けてまとめました。最終回は、物価についてご紹介しましょう。


第1回目『多くの人の生活実感では、景気や暮らし向きは良くない

第2回目『収入アップを実感している人は、意外に少なかった』。


95%の人が、1年前より「物価が上がった」


『あなたご自身の感じでは、「物価」は1年前と比べてどう変わりましたか。』ここでの物価は「あなたが購入する物やサービスの価格全体」と定義しています。


この質問に対し、「かなり上がった」と答えた人は65.8%。「少し上がった」が29.2%、これらを合わせた「上がった」と感じる人は95%に上りました。9割以上の人が「上がった」と答えたのは2022年9月調査から8回連続です。


今回、物価が上がったと答えた人にどのように思うかを尋ねると、「どちらかと言えば、好ましい」という人は、わずか3.1%。「どちらかと言えば、困ったことだ」は84.3%で、前回の81.0%より増えています。立場や捉え方によっては、物価上昇が好ましい側面もありますが、人々の生活実感では8割以上の人が困っています。


一方、物価が「少し下がった」「かなり下がった」と感じている人は、合計で1.1%。物価下落を感じている人のうち「どちらかと言えば、好ましい」人は13.6%。「どちらかと言えば、困ったことだ」は27.3%です。少数派ですが、物価が下がって困っている人が、下落が好ましい人の2倍です。


2006年から2007年頃は、物価下落を感じる人のうち6割前後が好ましいと受け止めていました。翻って全体的に物価上昇傾向の現在、少ないながらも物価下落で困っている人もいる点が、興味深いです。


「物価がどのぐらい変化したか」と感じる差が大きい


さらに、1年前に比べて現在の物価が何%程度変わったと思うかを、具体的な数値で答えてもらうと、平均値は15.7%上昇でした。この平均は、極端な値を排除するため、上下各々0.5%のサンプルを除いて計算した値です。


一方、中央値は10%上昇でした。中央値とは、回答の値の大きさを順に並べた際に、真ん中に位置する人が答えた値です。


平均値が15.7%で中央値が10%というのは、高い数字で回答した少人数の人がいた表れです。上下の極端な回答を除いた平均値にもかかわらず、これだけの開きがあったのです。高い数字で回答した人がバラバラと存在していたと推測されます。


その時々において、人々が感じた前年との物価の変化率の平均値と中央値の推移を、【グラフ1】に示しました。


 


平均値と中央値の関係から、最近は、少数の高い回答がある傾向です。2008年頃にも高い時期がありましたが、この頃は、現在ほど平均値と中央値の開きが大きくありません。中央値が同じ10%でも、現在は特に高い物価上昇を実感する人がいることを示しています。


1年後、5年後の物価はどう変わる?


では、今後の物価について人々はどのように見ているのでしょうか。【グラフ1】で示した1年前からの変化に、現在を起点にした1年後と、5年後まで毎年平均何%程度変わると思うか、それぞれの平均値と中央値の推移を重ね合わせてみます【グラフ2】。

 


2009年頃から2013年頃までは、足元の物価変動(赤いグラフ)も先の物価変動(1年後が水色、5年間が緑色)も、0%程度から5%程度に収まっています。さらに、赤いグラフより水色や緑の方が上にあり、将来はやや物価が上がると見ていたと推測されます。


次の、2013年頃にアベノミクスで環境が変わってきた頃からコロナ禍の2021年頃までは、足元の物価上昇よりも先の見通しの方が低めです。「いまは物価が上がっているが、この先は上昇も落ち着くだろう」という感じではないかと思われます。


なお、この期間については、どの色も、点線(中央値)が比較的低めです。しかも、赤い現状の認識より緑が低く、多くの人はが「5年間も今ほど高い物価上昇が続くとは思えない」と考えている様子が伺えます。


最近は、1年後の物価上昇見通しは、多くの人の考えが「10%上がる」に集中していますが、5年後の見通しには差がありそうです。中央値は5%が続く中、平均値は7%台~8%台で推移しています。


5年先までの見通しはまちまち


では、5年後の物価見通しについて、もう少し詳しく見ていきましょう。


2024年6月の調査で、現在と比べた5年後の物価を「上がる」と見ている人は、「かなり上がる」「少し上がる」の合計で82%。「上がる」という人に複数回答でその理由を尋ねると、「最近物価が上がっているから」(80.9%)、「中長期的に物価は上がるものだから」(33.3%)、「長い目で見て、景気が良くなると思うから」(9.9%)が上位に並びます。


一方、5年後の物価が「下がる」という人は、「少し下がる」「かなり下がる」の合計で4.9%です。理由の上位は、「現在の物価は高すぎるから」(66.7%)、「長い目で見て、景気が悪くなると思うから」(16.2%)、「中長期的に物価は下がるものだから」(15.2%)となっています。


興味深いのは、上がると思う人も下がると思う人も共通して、足元の物価上昇を根拠にしている点です。また、「景気が良くなる/悪くなると思う」や「中長期的に物価は上がるもの/下がるもの」と、将来の見解が異なるため、物価に対する見通しに差があると考えられます。


これらの理由を踏まえて【グラフ3】を見てみましょう。1年後と5年間の年平均の物価変動に対し、どの程度変化すると思うか答えた分布です。


 


全体的に、5年間の予想平均は1年後に比べるとやや低めに分布していることがわかります。先に上げたように、景気循環などを考慮すると、さすがに息切れすると見ているのでしょう。


市場や景気は、人の気持ちが反映します。このような意識調査は、需給を読むうえで参考になるのではないでしょうか。


【参考サイト】

生活意識に関するアンケート調査」(日本銀行)

ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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