デジタル・トランスフォーメーション(DX)はデジタル化を通じた社会や生活の変化・変革という意味です。経済産業省によると、産業界におけるDXの定義は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。
産業界におけるDXは一時期、しきりに必要性が叫ばれましたが、もちろん一過性の流行ではなく、デジタル技術の進化とともに常にアップデートが必要な領域です。市場調査会社の多くはDX 産業の世界市場規模が2024年から2030年にかけて年平均で20%以上成長すると予想しています。
産業界におけるDXは経済産業省の定義にもあるように製品やサービスだけでなく、業務プロセスや組織にも及びます。このため関連サービスを提供する企業は多岐にわたり、セクター分類の境界線もあいまいです。
以前にこのコラムでご紹介したクラウドサービスや顧客関係管理(CRM)ソフトウエアといった分野の企業も大枠でいえばDX関連サービスに分類されるかもしれません。今回はそこで取り上げた銘柄を除き、DX推進のプラットフォームを提供するサービスナウ(NOW)などをご紹介します。
サービスナウ、ワークフローの改善が使命
アルファベット(GOOGL)傘下のグーグルが創業当初から「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスして使えるようにする」という理念を掲げているのはよく知られています。これに対しDX推進のプラットフォームを提供するサービスナウは「あらゆる人にとってより良く機能する世界の構築」というグーグルに劣らない壮大な理念を表明しています。
サービスナウは「ワークフローの改善」というシンプルなキーワードも自社の使命としており、実現に向けた具体的な手段としてクラウドベースのプラットフォームの「ナウ・プラットフォーム」を企業、大学、政府機関などに提供しています。人工知能(AI)や機械学習の機能を搭載したプラットフォームで、ワークフロー(業務の流れ)のデジタル化を推進します。
ナウ・プラットフォームは、業務プロセスの簡素化と自動化を推進する機能を持ち、生産性の改善やイノベーションの創出を実現します。柔軟性や拡張性に優れ、生成AIやロボテイック・プロセス・オートメーション(RPA)、パフォーマンス分析といった機能を付け加えることでワークフローのオートメーションを強化することも可能です。
ナウ・プラットフォームは、テクノロジー、顧客&業界、従業員、クリエーターという四つの領域に分かれています。このうちテクノロジーは企業や政府機関のIT部門を対象にしており、組織内のIT関連のニーズに対応した計画の立案や構築、運用といった業務を支援します。
テクノロジー分野のプロダクトには「ITサービス・マネジメント」や「ITオペレーション・マネジメント」などがあります。「ITサービス・マネジメント」はIT環境が共有できていない状態を指すサイロ化を解消する管理ソリューションです。単一のクラウドプラットフォームへの統合を通じてデータや分析を共有できる仕組みを導入することができます。
また、「ITオペレーション・マネジメント」は組織内のIT部門によるシステム運用を支援します。特に問題が起きた場合にシステムを修正する事後対応型ではなく、事前対応型への移行を促すツールです。
DXの意義や目的を考えると、デジタル化を通じた生産性の向上とそれに伴う顧客満足度の改善に尽きると言えるかもしれません。生産性の向上にはスタッフの業務ストレスを軽減するという視点が欠かせません。このためITシステムの使い勝手は極めて重要で、サービスナウもテクノロジー分野のソリューションを重視しています。
一方、顧客&業界分野の主力製品には「カスタマー・サービス・マネジメント」や「フィールド・サービス・マネジメント」などがあります。営業の最前線で顧客に対応するフロントオフィスだけでなく、事務処理などを担うバックオフィスの業務プロセスを可視化し、簡素化するのが主な役割です。「フィールド・サービス・マネジメント」は、客先での作業効率の改善を促すツールです。派遣する技術者の生産性向上、技術者の適正化、スケジュール管理などの機能を持ちます。
四つの領域のうち従業員分野では、「HRサービス・デリバリー」や「人事管理システム(HRMS)」などが主力製品です。従業員エクスペリエンス(体験)の向上で優秀な人材をつなぎとめた上で、モチベーションを高めて生産性の改善につなげる視点は経営戦略に不可欠であり、DXの重点項目でもあります。また、この分野では人事に必要なプロセスの自動化などを通じ、人事部門の負担を軽減します。従業員の評価基準の向上なども実現し、適材適所を推し進めます。
クリエーター分野では「アプリ・エンジン」「オートメーション・エンジン」などのプロダクトがあり、コードを使うことなくアプリを開発するのに役立ちます。
競合とも協業、利便性提供で顧客数が着実に増加
サービスナウのサービスを利用する顧客の数は2023年末時点で8100を超え、前年の7700から着実に増えています。プラットフォームを提供してサブスクリプション(定額課金)収入を得るビジネスモデルだけに、顧客の増加に伴い売上高も伸びています。
2023年12月期決算は売上高が前年比23.8%増の89億7100万ドル、純利益が5.3倍に当たる17億3100万ドルです。純利益は税金還付といった特別要因もあり、出来過ぎといえそうですが、それでも収益は確実に増えています。
サービスナウは年次報告書の中で競合先としてオラクル(ORCL)、独SAP、セールスフォース(CRM)、ワークデイ(WDAY)を明記していますが、こうしたライバルとのプラットフォームやアプリの統合には積極的です。利用者を囲い込むのではなく、利用者の利便性に重点を置く姿勢が顧客数の伸びにつながっていると言えるかもしれません。