あるはずの端株がない? 端株はどこにある?

長年株式取引をしている人で、「端株」を持っている人はいませんか? 100株未満を指す「単元未満株」ではありません。「端株」です。今回は、「端株」について解説しましょう。


筆者がよく相談を受けるケースとしては、年配の方が終活などで金融資産を整理する中で、「株主配当金の通知には端株が載っているし、配当金も受け取っているけれど、証券会社の残高明細書にはその株式が書かれていない」というもの。また、「親の証券口座の相続手続きをしたのに、故人宛に端株の配当金の通知が届く」といったケースもあります。


「端株」は厳密には「単元未満株」とは異なる


現在、上場株式は、100株を1単位として証券取引所で売買されています。100株を1単位とすることを「1単元」といい、100株未満の株式は「単元未満株」と呼ばれます。1株から99株までが単元未満株です。インターネット専業の証券会社などが、独自サービスで100株未満の株式取引を行なっているのは、「単元未満株」です。


この「単元未満株」のことを「端株」と呼ぶ人もいますが、厳密には「単元未満株」と「端株」は異なります。


20年以上前から株式取引をしている人は、無償増資(株式分割)などで取引単位未満の株式を受け取った経験があるかもしれません。この時に発生した端数の株式が「端株」です。


ご相談で圧倒的に多いのが「株主配当金の保有株式数に端株が存在しているのに、証券会社の残高明細には端株がない」というケースです。


この場合、株主名簿管理人である信託銀行の「特別口座」で管理されていると考えられます。配当金の通知などの差出人となっている信託銀行に問い合わせると、端株が見つかるかもしれません。


この「特別口座」は、証券会社の「特定口座」とは異なります。1文字違うだけですが、全く違う制度です。「特別口座」とは、株主名簿を管理している信託銀行が一括して保管する株式の預かり口座のことです。証券口座ではないので売買などの取引口座ではなく、金庫のような役割をしています。


特別口座は、株券が電子化された際に、「証券保管振替制度(ほふり)」に預けられなかった株式を、信託銀行が保管庫のような役割として設置した口座です。制度の切り替え時に、とりあえず一括して預かっておこうという趣旨で作られた口座ですが、20年以上そのままになっている株主の端株が相当数残っていると思われます。


一方、証券会社の「特定口座」は、株式などの売却時に納税を簡略化できる証券取引口座の名称です。みなさんは、こちらの方が馴染みがあるかと思います。



株式の「額面」と「端株」


「端株」を理解するには、上場株式の取引制度の歴史をたどる必要があります。


以前、株式には「額面」という概念があり、多くの銘柄は額面が50円でした。証券取引所では、額面50円の銘柄は1,000株単位で取引されるルールでした。電力株などは500円額面で100株単位、NTTなどは50,000円額面で1株単位でした。


株式会社が増資や株式併合を行なうと、その比率によっては端株が発生します。例えば、「1株が1.1株になる無償増資」では、それまで1,000株を保有していた株主に、新たに100株が割り当てられます。これは現在の株式分割でも同じですね。現在の制度では、証券会社の残高明細が1,100株になります。


しかし額面制度の下では、1単位に満たない株数の株式は証券会社で預からず、株主名簿を管理する信託銀行に登録されていました。これが「端株」です。


先の例が1,000株単位の銘柄であった場合、元の株式の1,000株は証券会社の保護預かりですが、無償増資で受け取った100株は株券が発行されず、信託銀行の「登録株」となります。株主名簿では1,100株でも、証券会社は端株を預かりませんので、証券会社の残高明細は1,000株のままです。


「ほふり」と「株券の電子化」


上場株式の額面制度は、商法の改正によって2001年10月に廃止されました。上場株式はすべて無額面で、取引単位を自由に決められるようになりました。しばらくの間、売買単位は従来からの1,000株単位が主流で、しだいに取引しやすいよう100株単位に引き下げる銘柄も増えていきました。さらに2018年10月からは、東証が個人投資家の取引を活発化させる目的で、上場銘柄を100株単位の取引に統一しました。


また別の側面から、株式取引の簡素化が進みました。以前、株券は紙でできており、売買の都度、売却した株主から買った株主へと株券を受け渡していました。自分で株券を保管する株主もいましたが、多くの株主は取引証券会社に保護預かりをしていました。


この受け渡しをスムーズにする制度が「証券保管振替制度(ほふり)」です。1991年にほふりが始まる前、紙の株券があった時代に、株主の名義は株券の裏に書かれていました。株式は買っただけでは名義人にはなれず、名義書換の手続きをして初めて、株主総会の招集通知や株主配当金の支払明細書が届くのです。株主の権利を得るには、株を購入するたびに名義書換をしなければなりませんでした。


「あるはずの端株」は信託銀行に、ある


現在、上場株式の個人株主のほとんどが、名義をほふりの「実質株主」として、データ上に管理されています。証券口座の開設時にほふりに登録をしておけば、その後に買った上場株式はすべて実質株主となり、改めて手続きをすることなく株主総会や配当金、株主優待などの権利を得ることができます。


ほふりの制度によって、株主名義の移転がスムーズになりました。さらに2009年1月、株券の電子化へと発展します。大雑把な時期として、リーマン・ショックより前に株式取引をしていた人は、このような制度の変遷を経験していることでしょう。


「あるはずの端株がない」問題の本題はここからです。


株式を全面的に電子化する際、それまで流通していた紙の株券を回収し、データ化することになりました。自宅や貸金庫などに保管している株券や信託銀行の登録株は、証券会社に預けてほふりに預託すれば、デジタルデータとして株主管理が行われます。


しかし、この時に手続きをせず、電子化されずに以前の登録株のまま信託銀行に置き去りにしてある端株が、現在でも多く残っているようです。これが「あるはずの端株がない」の実態です。


最近、終活への意識が高まっているせいか、この端株を処分する方法などについての質問が増えています。次回は、この端株を換金する方法や相続が起こった場合の手続きについて解説します。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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