投資と金融リテラシー

このところ株式市場は大荒れです。新NISA(少額投資非課税制度)をきっかけに投資を始めた人は、ビックリしているかもしれませんね。でも、投資をするメリットは、資産が殖えるだけではありません。投資は、生きる知恵も養われると思っています。


投資経験の違いで金融リテラシーに差


金融庁では、金融機関を利用している人の資産運用に関する意識や状況などを把握し、政策の参考にしています。この調査は3年に1度実施されており、このほど、2024年1~2月(2023事務年度調査)に全国の18歳以上の9,722人を対象に行なったインターネット調査の結果が公表されました。


この「リスク性金融商品販売に係る顧客意識調査結果」(金融庁)によると、投資経験者と未経験者の間で、金融リテラシーにはっきりと差がつきました。金融リテラシーとは、お金に関する知識や判断力を持ち、これらを適切に使いこなせる能力のことです。


では、みなさんの金融リテラシーを試してみましょう。実際に金融庁が「リスク性金融商品販売に係る顧客意識調査」(2024年1~2月の2023事務年度調査)で使用した3つの設問をご紹介します。あなたは答えられますか?


問1 金利と債券価格の関係


金利が上昇すると、(固定金利の)債券の価格はどうなると思いますか。

A.下がる

B.上がる

C. 変化しない

D.債券価格と金利の間には何の関係もない

E.分からない


<正解> A.下がる


金融市場では、日々、刻々と金利が上下しています。金利が変動するのは、資金を借りたい人と貸したい人との間での取引の結果です。


資金を「借りたい」という需要が多い時は、その資金を他に回されてしまうより自分が借りたいと思う人が、「背に腹は代えられない」と高い金利条件でも応じる傾向になります。貸し手つまり資金の供給側にとっては、より高い金利で借りてくれる人に資金を融通したいですから、金利は上昇傾向になります。


さて、この金利上昇場面で、あなたは以前から固定金利の債券を持っていたとしましょう。金利が上がる前に発行された債券は、今となっては利率が見劣りします。換金して、別の新たな高金利の金融商品で運用したいと思うのではないでしょうか。しかし、あなたが持っている低い利率の債券は、他人から見ても魅力はありません。市場価値は低くなるのです。


ということで、「問1 金利と債券価格の関係」の正解は、「A.下がる」でした。


いままさに、日本は「金利ある世界」に入ったところです。日本銀行は、2024年3月にゼロ金利政策を解除して17年ぶりに利上げを実施。 7月31日には、年0%~0.1%程度だった政策金利を年0.25%程度とする追加利上げに踏み切りました。


この状況下で、債券運用のファンドは価格が低迷しています。一般的に、「債券は低リスク」と言われ、長期で見れば他の金融商品よりも相対的に低リスクに違いはないのですが、直近では価格下落に見舞われています。


金利の状況を踏まえると、これは当然です。しかし金利と債券価格の関係を理解していないと、保有資産の運用報告書や残高明細書を見たときに慌ててしまうでしょう。


問2 金利とインフレ率の関係


預金の金利が年に1%で、インフレ率が年に2%だとします。1年後、あなたがその口座のお金で、今日よりもどれくらい物を買うことができると思いますか。

A.今日買うよりも少ない物しか買えない

B.今日買うのと同じだけ物が買える

C.今日買うよりも多く物が買える 分からない

D.分からない


<正解> A.今日買うよりも少ない物しか買えない


この数年、インフレに見舞われ、生活が厳しいと感じている人は多いのではないでしょうか。設問は、貯金して増えた利息よりも、同じ期間内のモノの値上がりのほうが高くなったという状況です。金利の情報は、資産を殖やすだけのものではありません。日々の生活にも密着する情報です。


問3 分散投資の効果


1つの企業の株式を購入する場合と、複数の企業の株式に投資する投資信託を購入する場合では、一般的に、どちらが損益の振れ幅が小さいと思いますか。

A.複数の企業の株式に投資する投資信託を購入する場合

B.一つの企業の株式を購入する場合

C.どちらともいえない

D.分からない


<正解> A.複数の企業の株式に投資する投資信託を購入する場合


証券投資をしない人に理由を尋ねると、「リスクがあるから」という答えが返ってきます。リスクを全く無くすことはできませんが、リスクを低く抑える手法はあります。そのうちの1つが「分散投資」。投資対象を複数に分けることで、リスクを軽減する効果が働きます。


この効果を知らずに、「リスクがあるから」と投資を敬遠していたら、得られるチャンスを逃してしまうこともあるでしょう。


さて、ご紹介した3つの問題は、冒頭にご紹介した通り、金融庁の「リスク性金融商品販売に係る顧客意識調査」の設問です。【グラフ】では、これらの正答率を投資経験別に示しました。



「投資経験者」は、株式、債券、投資信託、外貨預金及び暗号資産等のリスク性金融商品のいずれかを購入したことがあり、かつ、世帯内で金融商品の購入や資産運用の意思決定に関与している人です。「投資未経験・検討者」は、金融商品の購入経験はないけれど将来的に購入を検討している人で、「投資未経験・未検討者」は、金融商品の購入経験がなく、将来的にも購入を検討していない人です。


驚いたことに、「投資未経験・未検討者」のうちの64.2%が、3問とも不正解でした。


金融庁以外にも、日本銀行や日本証券業協会などが同様の調査を定期的に行っており、どの調査でも、投資経験のある人の方が未経験者より金融リテラシーが高い傾向です。


金融リテラシーは生きる知恵。計画的な家計管理を行ない、無駄な支出を抑え、目的や自分に合った金融商品を選びやすくなります。その結果、やりたいことを実現しやすくなるでしょう。また、詐欺などの被害には遭いにくく、保険などで突然のトラブルにも備え、よりよい生活を送ることができるのではないかと思います。


投資そのものにはリスクがありますが、そのリスクを避けてしまえば、リスクへの対応力が身に着きません。小さな金額など許容できる範囲でリスクにさらされる経験を重ね、いざという時に正しい判断ができるように備えることも大切なのではないでしょうか。


【参考資料】「リスク性金融商品販売に係る顧客意識調査結果」(金融庁)


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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