特別口座にある「端株」の相続

ここまで、2回にわたって「端株」について解説してきました。


・第1回目『あるはずの端株がない? 端株はどこにある?

・第2回目『どうしたら良い? 信託銀行の特別口座にある「端株」


相続で初めて端株を知ったという相続人もいれば、終活などで端株を処分したいと考えている人もいます。最終回の本記事では、信託銀行などの「特別口座」にある「端株」の相続について説明しましょう。


「特別口座」の相続手続は2つの方法がある


金融機関等での相続手続は、遺言の有無や相続の状況等によって、必要な書類や手続の詳細が異なります。ここでは信託銀行等の「株主名簿管理人」の「特別口座」に「端株」そ持っている人が死亡した場合に絞って、2009年1月に株券が電子化された後に死亡したケースで解説します。特別口座、端株などの詳しい説明は、第1回目『あるはずの端株がない? 端株はどこにある?』、第2回目『どうしたら良い? 信託銀行の特別口座にある「端株」』をご覧ください。


第1回目の記事で説明したように、古くから株式取引をしている人の中には、過去の株式分割などで発生した端株が信託銀行等の特別口座に置いたままになっている人がいます。この場合、親株(単元株)は証券会社に、端株は信託銀行等に、と分かれているため、証券会社のほかに信託銀行等でも相続手続を行なわなければなりません【図】。



信託銀行等の特別口座にある端株の相続手続には、2つの方法があります。


1つは、「A:株式を現金化せずに証券会社の証券口座に振替(移管)をする方法」。もう1つは、「B:信託銀行等で買取請求の手続きをし、相続手続と同時に端株を現金化する方法」です。


A:証券会社に口座振替をする場合


相続人が引き続き株式を持ち続けたいと思っても、相続人の特別口座を信託銀行に開設することはできません。株式のまま持つのであれば、証券会社の証券口座に移管します。この場合、単元未満株の取引を行なっている証券会社であれば、単元未満株の売却ができるので便利です。


証券会社によっては、単元未満株を預かることはできても、単元未満株の取引ができない証券会社があります。その場合、単元未満株を換金したい時が来たら、前回の記事で説明した「買取請求」の手続を、証券会社または信託銀行等で行ないます。


B:信託銀行で買取請求をする場合


相続人が端株を現金化したいのであれば、信託銀行等で買取請求を行ないます。また、証券会社に口座を持っていなかったり、口座があってもその証券会社では単元未満株の取引ができなかったりする場合は、証券会社に移管する手間などを考え、相続を機に端株を現金化しても良いかもしれません。


第2回目の記事では、端株の株主が信託銀行等で現金化する「買取請求」の説明をしました。端株の株主が故人の場合でも同じように買取請求ができます。「相続による単元未満株式買取請求書・取次依頼書」という、相続人による買取請求手続の専用用紙があります。


相続による単元未満株式買取請求は、相続手続に必要な書類一式を添えて信託銀行等に依頼します。遺言の有無や相続の状況によって異なりますが、一般的には次のような公的書類が必要です。


●死亡した株主の戸籍謄本または戸籍の全部事項証明(被相続人の出生から死亡まで連続したもの)

※死亡した株主がすでに戸籍から除籍されている場合は、相続人全員の戸籍謄本または戸籍の全部事項証明

●相続人全員の印鑑登録証明書(発行後6ヵ月以内のもの)

●遺産分割協議書、相続依頼書 等


なお、端株の相続手続に期限はありませんが、長期間放置しないようにしましょう。会社法で「所在不明株主の株式売却制度」が定められているため、株主としての権利つまり財産を失う可能性があるからです。


「所在不明株主」とは、継続して5年間、発行会社から株主への通知などが宛先不明などで届かなったり、株主配当金を受け取っていない、といった株主です。株式の発行会社が「所在不明株主」の株式を売却すると、売却代金は供託所に供託されてしまいます。


税金について


税金の具体的な計算等は、税理士にご相談下さい。ここでは、簡単に概要をまとめておきます。税金と一口に言っても、端株を相続で受取った時の相続税と、その端株を現金化した時の所得税・住民税(譲渡所得)の2種類があります。


まずは相続税。端株であっても相続の対象です。相続財産として扱われ、相続税の計算対象です。株式のまま証券会社に振替えて相続しても、相続による買取請求で現金化しても、相続財産として通常の上場株式と同様の評価方法となります。


次に、相続人がその端株を現金化したときに発生する所得税・住民税についてです。被相続人(故人)がその株式を購入した時の株価及び手数料等を「取得費用」として、現金化して譲渡益が出れば、原則として、確定申告が必要です。


信託銀行の特別口座に入っているような古い端株は、購入時の株価が不明であったり、証券会社でも取引明細が分からなかったりすることが多くあります。その場合は、「みなし取得費」を使うしかありません。譲渡益に対する所得税・住民税の計算は、端株の株主が生前に現金化した場合と同様です。前回記事『どうしたら良い? 信託銀行の特別口座にある「端株」』をご覧ください。


なお、相続した株式を相続税の申告期限から3年以内(相続発生日から3年10カ月以内)に売却した場合は、「取得費加算の特例」が使えます。


「取得費加算の特例」は、相続税の申告期限から3年以内に相続で取得した株式などを売った場合、相続税額のうちの一部を取得費に加えることができる制度です。対象者は、その売却した株式の相続税を納めた相続人。適用を受けるには確定申告が必要です。この制度を使うことによって、株式の売却益に対する課税額を抑えられます。端株だけでは多額にはならないと思いますが、他の株式の売却などがあるならば、端株についても「取得費加算の特例」が使えることを頭の隅に置いておくと良いでしょう。


相続に関しては、死亡後に配当金の支払通知が個人宛に届いたり、どこの証券会社で相続人が株式取引をしていたかが分からなかったりするケースもあります。これらについては、また別の機会にご説明することにしますね。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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