今後のNISAの改正は? 税制改正要望を読む

2024年から、NISA(少額投資非課税制度)が飛躍的に使い易くなりました。おかげで、以前なら見向きもしなかった人も関心を寄せるようになったと実感しています。


金融業界では、NISAの利便性をさらに求めています。金融庁が8月に財務省に提出した「令和7(2025)年度の税制改正要望」から、NISAに関する部分を紹介しましょう。


制度改正の流れ


NISAは、個人が投資で得た利益を非課税にする制度です。NISAの制度改正は、税金に関連するため、税制改正の項目です。税制改正の流れを押さえておきましょう。


税制改正のステップを簡略化すると、【図】のようになります。



まずは業界団体が、関連する省庁に、税制改正に関する要望を提出します。これを受け、各省庁は8月末までに財務省(国税)と総務省(地方税)に「税制改正要望」を提出します。


要望の内容は、各業界団体などや各省庁のホームページで閲覧できます。報道機関も、この要望の内容やその後の議論の経過を報じます。ただ、報道を見聞きした人の中には、決定したものと早とちりしてしまう人も見受けられます。この時点では、あくまでも法改正に向けての準備段階です。


秋から年末にかけては、与党税制調査会と関係省庁との間で議論されます。12月に入ると大詰め。12月中旬から年末までには、与党内で決定した「税制改正大綱」が公表され、この時点で、ほぼ、国会での審議内容が決まります。その後、税制改正大綱は閣議決定となります。


なお、「税制改正大綱」が公表されると、各省庁が税制改正に関する解説を公表します。この解説は図表が多用されたわかりやすい資料で、各省庁のホームページから誰でも見ることができます。


税制改正大綱の内容に基づき、国税は財務省が、地方税は総務省が、税制改正の法案を作成します。この法案が通常国会に提出され、審議・承認を経て法改正となります。


金融庁からの令和7(2025)年度の税制改正要望


ここからは、金融庁の令和7(2025)年度の税制改正要望を見ていきましょう。


今回の要望のポイントは、以下の3つです。

1.「資産所得倍増プラン」及び「資産運用立国」の実現 2.「世界・アジアの国際金融ハブ」としての国際金融センター

3.安心な国民生活の実現


『1.「資産所得倍増プラン」及び「資産運用立国」の実現』の冒頭が『NISAの利便性向上』です。国民の安定的な資産形成を引き続き支援するため、NISAの利便性の向上を図る必要があると述べられています。


NISAの改正要望1「事務手続きの簡素化」


利便性の向上として、金融機関の事務手続きの簡素化が要望されました。


現行では、金融機関がNISA口座の顧客について、10年後などに所在地確認を行なわなければなりません。NISA口座はマイナンバーと紐づけられているので、NISA口座開設者の所在地の把握は可能なはず。郵送による手続きからデジタル化へと要望。これにより、金融機関の負担軽減および顧客の利便性向上につながるとしています。


また、NISA口座の金融機関を変更する際、現行では変更申込みから買付が可能になるまで1~2週間を要しています。これは、二重にNISA口座を開設していないかを税務署が確認する期間ですが、これを即日買付可能にするよう要望しています。


NISAの改正要望2「ETFの要件の見直し」


現行では、NISAのつみたて投資枠で購入できるETFの要件は「指定されたインデックスに連動」となっています。


従来、証券取引所において、ETFの上場要件が「インデックスに連動」だったため、NISAのつみたて投資枠の対象商品のETFも「インデックスに連動」と定められていました。


ところが、東証が規則を改正し、2023年6月からはアクティブETFの上場が可能になりました。そこで、NISAのつみたて投資枠においても、アクティブETFが利用可能となるよう要件の整備を求めています。


また、現行では、つみたて投資枠の最低取引単位が1口1,000円以下と定められています。投資信託協会によると、2023年末時点で東証上場の国内籍ETFでつみたて投

資枠の要件を満たす48本のうち、1口1,000円以下で買えるETFは1本もありません。つみたて投資枠でETFを買うなら「るいとう(累積投資)」を利用しなければならないのです。すべての証券会社がるいとうのサービスを提供しているわけではありません。


投資家が取引しやすくなるよう、つみたて投資枠でETFの最低取引単位見直しが、要望されました。


ちょっと残念


最後に、個人的に残念と感じた点を1つ。


同一年内のNISA口座は「1人1口座」と定められています。このルールを撤廃する要望は出されませんでした。


「1人1口座」の不便な点は、次のような例です。


仮に、A銀行でNISA口座を持つ人が、同じ年にNISAで株式投資をしたいと思ったとします。銀行では株式を買えないので、証券会社の課税口座で株式を買うしかありません。


また、投資信託は金融機関によって取り扱い商品が異なります。B証券会社でNISA口座を持っている人は、B証券会社で取り扱う投資信託しか買えませんし、C信用金庫でNISA口座を持つ人は、C信用金庫で扱う投資信託しか買えません。


後になってある投資信託を買いたいと思っても、既にNISA口座を持っている金融機関でその投資信託を取り扱っていなければ、取り扱っている別の金融機関の課税口座で買うしかないのです。


「1人1口座」のルールによって、NISA口座が一握りの金融機関に集中していると感じます。また、投資信託を直販(直接販売)する運用会社の中には、とても魅力的な理念を掲げた会社が多いです。けれど、自社の投資信託しか取り扱っていないことから、NISA口座として選ばれにくい傾向になっているとも感じています。


複数の金融機関にNISA口座を開設するのは、税務当局の事務が煩雑になるのでしょうか。マイナンバーで紐づけられていても、煩雑でしょうか。いつか、「1人1口座」が撤廃されることを願っています。


【参考】

令和7(2025)年度 税制改正要望について 2024年8月」(金融庁)

ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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