「アクティビスト」の発言はどこまで許されるものなのか

2024年9月11日、フリマアプリを展開する上場企業のメルカリ社が、「ソーシャルメディア上での誹謗中傷その他ハラスメント等に関して」と題したリリースを発表しました。


同社の役員・従業員に対し、バカ・クソ・無能・辞めろ等の能力・人格否定が行われている点、または事実と異なる誤情報の拡散が確認されたという注意喚起です。発信者は同社の株主と判明しています。むしろ、当該個人投資家は一連の行動を拡散し、攻勢をかけている状況です。


かねてより、モノ言う株主は「アクティビスト」と呼ばれてきました。この存在自体は基本的に違法性のある行動ではないのですが、彼らの発言はどこまで許されるものなのでしょうか。


1970年代から活発化したアクティビスト

アクティビストの定義は「株式を一定程度取得したうえで、投資先の企業に積極的に提言を行う存在」です。株主提案権の行使や、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘等を行います。最近は株式の保有割合が低くても、投資先企業に積極的な提言を行うケースがあります。経営陣と提案株主で総会の委任状を取り合うことは委任状闘争(プロキシ―ファイト)と呼ばれ、これまでも大きなニュースとして報じられてきました。


経営陣とは意見や優先する戦略が異なっていても、基本的には会社価値を上げる共通した目的があります。では会社価値を上げる目的を持っていたら、今回のメルカリ社のような個人攻撃や人格否定は許されるものなのでしょうか。当然ですが、答えは許されるものではありません。



厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」にて規定

厚生労働省は標題のマニュアルにて、「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」に対して、ハラスメントと定義しています。そのためメルカリ社は、該当のアクティビストに対して、発信者情報開示請求や訴訟等の法的措置を示唆しています。


そもそも当該の発信者は炎上を目的とする傾向もあり、インターネットを中心に大きな支持を集める一方、その言動や行動が問題となるケースも多々ありました。今回は提言の受け入れはもちろんのこと、それまでの炎上性もひとつのコンテンツとして提供している傾向があります。


ソーシャルメディア上での質問について

また同社は、ソーシャルメディア上に投稿される質問についても、ディスクロージャー・ルールの視点から回答をしないという姿勢を打ち出しています。上場企業によっては代表者がX(旧Twitter)などで回答する社もあり、各社の姿勢に委ねられています。


行き過ぎの活動は取り締まられるべき

上場企業の経営者は「公人」に近い位置づけです。投資資本を集めて事業展開をしている以上、事業展開によってインターネット及びリアルの場で言及されるのは義務の一環といえるでしょう。ましてアクティビストはステークホルダーであり、当然に権利を持った存在と考えられます。


ただ、個人攻撃や誹謗中傷は論外です。今回は提案自体が議論されるものではなく、その表現方法が大きな問題となっています。


対応の緊急性としては当人の是正はもとより、警察や司法による介入をする段階にあるのではないでしょうか。またインターネットの世界はこれらの活動を「面白がる」傾向が強く、リアルの対面では憚れるような言動も、ヤンヤと取り上げられるケースが多いように感じます。開示請求の厳罰化で一時収まったものの、インターネットにおける主義主張(もしくは狂騒)は何かしらの欲求を満たす効果があるのか、根本的な解決には至っていません。


同社の発表のように、伝えたい提言があるのであれば株主総会その他の方法で伝えるべきであるし、提言が通らないのであれば所有株を売却すべきではないかと考えます。非上場株式ならばともかく、上場株はそのために流動性を担保している部分もあります。



モノ言う株主とモノ言わぬ株主

同社の発表後も、当該個人投資家の発信は続いています。さすがに個人攻撃と見做されるものは減っているような印象を受けますが、もともと炎上にて存在感を維持してきた実績を見ると一時的なものでしょうか。会社にはモノ言う株主がいると同時に、モノ言わぬ株主もおり、両者は均等に影響力を持つべきです。権利行使の場が株主総会など定められた場であるならば、炎上目的とはいえ看過してもいいものではないでしょう。


そもそも社内・社外取締役への選任は会社の決定であるため、個人攻撃は筋違いです。早急にこの大原則を再確認しないと、今回の件は一社の話だけではなく、「日本ではここまでやっていいんだ」という悪しき前提が生まれることに繋がってしまう懸念を持ちます。


意見発信では会社を動かせないため、これまでのアクティビストは(提案を行使できる)株式取得があり、委任権争奪戦がありました。ソーシャルメディアでの注目は、これらに代わる影響力を有するものではないと思います。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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