株がもらえるサービス? 前沢友作氏の新しいチャレンジ

ZOZOの創業者であり事業家の前沢友作氏は、同氏が代表を務める「カブ&ピース」(東京都港区)において、11月20日より電気、ガス、モバイル通信、インターネット回線、ウォーターサーバー、ふるさと納税といった生活インフラ関連サービスを提供すると発表しました。


こうした関連サービスを手がける企業は珍しいものではありません。このニュースを聞いたとき、常におもしろい仕掛けで世間をあっと驚かせてきた前沢氏が手がけるにしてはサプライズ感がないというか、インパクトに欠けるなというのが第一印象でした。


しかし、そこはやはり前沢氏のことですから、わたしたちを驚かせるような仕組みが存在していました。それははカブ&ピースのサービス利用者はカブ&ピース社の未公開株を受け取ることができるというものです。


XなどのSNSを利用している方は前沢氏が近年、株式投資の魅力やその重要性について、何度も繰り返しポストしていたのをご存じかもしれませんが、それらの投稿は今回のサービスを始めるにあたっての前振りの意味もあったのでしょう。


発表資料では、カブ&ピースは「目指せ、国民総株主」をテーマに、日本国内における株式投資家を増やし、日本国経済を活性化させることをミッションに掲げており、サービスの利用者に、対価として同社の株式を保有してもらう仕組みを同時に提供することで、「国民総株主」を早期に実現させることを目指すとしています。


サービスを利用することでその会社独自のポイントなどを付与する例はよく見かけますが、自社の未公開株を提供するというのは聞いたことがありません。同社によればこうしたスキームは「日本初」であるということです。


サービス発表と同時により詳細な情報が記載された「目論見書(https://kabuand.com/prospectus.pdf)」も公表されました。これによれば、提供されるのは同社の普通株式ではなく議決権が付されていない種類株となっています。

また、カブアンド種類株主が反社会的勢力に該当する場合で、かつ取締役会(ただし、同社が取締役会非設置会社である場合には取締役の過半数とする)の承認がなされた場合には、当該カブアンド種類株主が保有するカブアンド種類株式を無償で取得することができるとの条項が設置されています。


端的に言えば、これらは普通株式よりも株主としての権利が制限されている、という見方もできるでしょう。しかし、実際に同社が東京証券取引所に上場を目指すとなった場合に、手続きを円滑するためには上記の条項は必要になると思われます。


不特定多数にサービスを提供する以上、その過程で反社会的勢力が一時的にカブ&ピースの種類株を取得することは当然考えられる事態です。しかし、反社会的勢力が株主となれば、上場申請をしたとしても東京証券取引所からは承認されません。上場は不可能になってしまいます。


また、多くの小口の株主に議決権が散らばってしまえば、会社の重要な決定を下す際に支障がでます。仮にすべての株主が全員異なった意見を持っていたとすると、何も決められず会社としては機能しなくなってしまうでしょう。


目論見書には同社が将来的に上場した場合(本当に上場できるかどうかはいったん置いて、それが可能となった時)には、同社が種類株1株を普通株1株と交換できる仕組みも目論見書には記載されています。そのためいざ上場となれば、それまでの種類株の株主は同社が普通株と交換することで、普通株の株主となるスキームなのでしょう。


種類株でも普通株と同様に配当は出るもようなので、同社を応援したい、かつ将来的な上場に向けて株式を保有したいという人にとっては、数少ない「未公開株」を取得するチャンスと言えるかもしれません。


通常、一般的な投資家が上場する前の会社に投資する機会はほぼありません。事業がうまくいかなければ倒産してしまい投資した資金は戻ってこないというリスクの高い投資になりますし、数億円単位のまとまった資金が必要となるため、個人投資家ではやろうとしてもなかなかできるものではないのが、未上場株いわゆるプライベートエクイティ投資です。


ですが最近では、未上場株への投資に対する環境も変化しつつあります。企業価値の判定のしにくさや投資家保護の観点から、従来では制限されていたものの、政府の規制緩和などを受けてハードルが下がっており、今年2月には誰でも買える公募投資信託へ未上場株を組み入れることが可能になりました。投資信託協会が自主規制ルールを改正し、純資産総額の15%を上限に組み入れられるようになっています。


こうした変化のなかで上場する前の会社の株を配るという前沢氏の取り組みは、時代に沿った新しいかたちなのかもしれません。まだ会社としては設立されて間もない、事業や業績を評価する段階にもなっていない企業ですが、本当に上場にまでつながるとなれば今までになかった道を切り開くことになるでしょう。前沢氏のチャレンジが果たして結実するのかどうか、期待をもって見守りたいと思います。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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