【米国株インサイト】不動産サービス(前編):多様なプレーヤーが多様なサービス

米国の住宅市場は日本と大きく異なっているようです。国土の大きさや人口密度だけでなく、国民の意識も違うと言われています。日本では、マイホームが一生に一度で人生最大の買い物という人も多く、それゆえに「新築神話」が根強いのですが、米国では新築に比べて中古住宅の流通量が圧倒的に多く、中古住宅の購入は特殊ではありません。


さらに米国では住宅を資産としてとらえ、資産価値が高まれば売りに出す決断を下す人も多いようです。資産価値を高める手段のひとつが自分で手掛けるリフォームです。米国人の多くは趣味と実益を兼ねたDIYが大好き。かくしてホームセンターのホーム・デポ(HD)やロウズ(LOW)が賑わい、売上高を伸ばしているのです。


もちろん商業や工業物件への投資も盛んで、S&P500の不動産セクターに採用されている銘柄では不動産投資信託(REIT)が時価総額の上位を占めています。といっても運用を外部にゆだねる信託型ではなく、自己で運用を手掛ける会社型が多いようです。


米国は不動産セクターの懐も深く、多様なプレーヤーが多様なサービスを提供しています。今回は不動産テックなども含めた関連銘柄をご紹介します。


ジロー・グループ、米国を代表する不動産テック

ジロー・グループ(ZG)は米国を代表する不動産テック銘柄です。不動産テックとは文字通りテクノロジーを駆使して不動産関連サービスを提供する企業のことで、サービスはさまざまな領域におよんでいます。


ジロー・グループは住宅情報の総合サイトやアプリを運営しています。売りに出されている住宅をサイトやアプリで検索し、次々に物件の写真を眺めることを米国では「Zillowing(ジローする)」と言うそうで、まるで「ググる」のような使われ方をするほど一般に普及しているようです。



不動産情報サイトとしては米国で最大のアクセス数を誇ります。大きな特徴となっているのが、2006年に立ち上げた不動産物件の自動査定モデルの「Zestimate」で、査定の精度の高さで知られています。


ビジネスモデルは、サイトやアプリの集客力を武器にした広告収入を中核に据えています。業績は2023年12月期決算の売上高が前年比0.7%減の19億4500万ドル、純損失が1億5800万ドル(前年は1億100万ドルの純損失)とさえませんでしたが、2024年4-6月期決算では売上高が前年同期比13.0%増の5億7200万ドルと伸び、純損失が1700万ドルと前年同期の3300万ドルからほぼ半減しています。


2023年12月期決算の事業別売上高はレジデンシャル部門が前年比4.6%減の14億5200万ドルで、全体に占める割合は74.7%に達しています。この部門は、不動産エージェント向けの「プレミア・エージェント」と呼ぶプロダクトが軸になっており、不動産エージェントや不動産ブローカーの成長を促す広告の掲出、マーケティング商品の提供、テクノロジーの供与などで構成されています。この部門では新築物件のマーケットプレイスも手掛けており、主に広告で収入を得ています。



レンタル部門は売上高が30.3%増の3億5700万ドル、売上比率は18.4%でした。レンタル部門は文字通り賃貸物件の情報提供を手掛ける事業で、不動産の販売会社や所有者などを対象に広告パッケージや販促ツールを販売して収益を上げるビジネスモデルです。


モーゲージ部門は売上高が19.3%減の9600万ドルで、売上比率は4.9%です。住宅ローンの供与、「ジロー・ホーム・ローン」を通じた流通市場に向けた住宅ローンの売却、住宅ローンの貸し手への広告スペースの販売などで収益を上げています。


ジョーンズ・ラング・ラサール、源流企業は1783年創業

ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)は不動産サービスを手掛ける企業です。1999年にジョーンズ・ラング・ウートンとラサール・パートナーズが合併し、誕生しました。源流をたどると、ジョーンズ・ラング・ウートンは1783年に英国で創業した歴史ある企業です。


現状では米国を中心に80カ国以上で事業を展開しています。2023年12月期決算の売上高は前年比0.5%減の207億6100万ドル、純利益が65.6%減の2億2600万ドルです。


セグメントは5つに分かれており、中核事業の一角といえるのが市場助言部門です。売上高は6.7%減の41億2200万ドルで、売上比率は19.9%にすぎませんが、調整後EBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)は21.0%減の4億1700万ドルで、5つのセグメントの中で最大です。


この部門はリーシングやテナント代表業務、不動産管理、コンサルティングなどに分かれています。リーシングは商業不動産の所有者に対するサービスで、テナントのターゲット策定、テナント募集、交渉などを担います。テナント代表業務はリース物件の紹介や交渉などテナント向けのサービスです。

ワークダイナミクス部門は施設管理を中心とする業務を受託し、テナント企業などの負担を軽減します。売上高は6.5%増の141億3100万ドル、調整後EBITDAは14.7%増の2億6400万ドルです。売上比率は68.1%とセグメント別で最大の売上高を持ちます。


テクノロジー部門は顧客企業がテクノロジーを導入する際の選定やデータ構築といったサービスを提供し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を後押しします。売上高が15.2%増の2億4600万ドル、調整後EBITDAが1億9600万ドルの赤字(前年は5100万ドルの赤字)でした。



このほか資本市場部門は主に不動産投資家や所有者を対象に金融サービスの助言業務を手掛けます。売上高は28.5%減の17億7800万ドル、調整後EBITDAは61.0%減の1億7300万ドルでした。


投資部門は不動産投資や売却、資金調達などを支援します。売上高は1.6%増の4億8400万ドル、調整後EBITDAは18.1%減の7900万ドルです。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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